昨日、高校時代の同級生が出演するお芝居を観に行きました。下北沢の劇場で1月10日から19日まで上演されており、昨日は夕ご飯の支度を夫に頼むことが出来たので、観ることが出来ました。
S君は高校生のときに同じクラスだった人。彼は札幌の大学時代に演劇に関わり、役者を目指して東京に出てきたそうです。夢が叶い、役者になったことは大分前に聞いていたのですが、高校時代の同級生とは、親しい女子の友達以外にはつながりがなく、風の便りにその動向を聞いていたぐらいでした。初めて彼のお芝居を友人と一緒に観に行ったのは、10年以上も前です。
昨年、関東に住む高校野の同級生のライングループが出来、今回の案内がアップされました。前回観に行ったときは、純粋にS君の活躍ぶりを観たかった。今回は、自分の好きなこと、やりたいことに真っすぐに生きてきたS君が年齢を重ねた今どういう芝居をしているのか、観たかった。
下北沢は本当に久しぶりでした。30代のころ、よく、この下北沢に来て小さな劇団の芝居を観ていました。20代に室蘭にいたころも、地元の小劇団の芝居を観に行っていました。観劇から遠ざかったのは、病気をしてからです。
小さな劇場の良さは、役者さんと観客がとても近いこと。昨日も劇場の入り口に入った途端、その狭さに一瞬驚きつつ、ホールに入るとステージの目の前にパイプ椅子が所狭しと並んでいて、「ああ、こんな感じだった」と懐かしさが込み上げました。
若い役者さんや演出家らの芝居に対するほとばしる情熱を、ひしひしと感じられる世界。S君はこの世界でずっと頑張ってきたんだな。還暦を迎えた今も生き残っているんだな、いや、彼独特の存在感を出しているんだな、と思いながら、開演を待ちました。
下北沢の「駅前劇場」で上演された「逆さま日記」のパンフレット。後ろはステージ |
作品は、探偵業を引退したシャーロック・ホームズが村で起こった殺人事件と不審死を関係者ら一人一人との対話を通じ、小さな手掛かりを手繰り寄せ、解決していく物語。最後にどんでん返しもあり、観客を飽きさせない素晴らしい舞台でした。
役者さんは皆とても上手で、観客の心をわしづかみにするようなパワーがありました。我が友人S君も退役軍人役で、とても良い味を出していました。いぶし銀の存在感を放っていました。
私たちのような年代が、それぞれの居場所でどういう役割を担ったらよいか、S君は芝居を通じて教えてくれました。主役でなくても、舞台の中心にいなくても、なくてはならない存在として、そこにいる。彼が長い年月をかけて積み上げてきた経験が、彼の人生の舞台である、その文字通りの舞台でしっかりと表現されている。教え子をかばう退役軍人の心の深さと優しさが、S君と重なりました。
いいなぁ、と思いました。
お芝居の後、狭い通路に役者さんが出てきて、観客と談笑していました。S君の姿をあちこち探し、ようやく、目立たない後ろのほうで、マスク姿でじっと立っているS君を見つけました。
「S君!」と声を掛けると、一瞬驚いたような顔をして、「むっちゃん、来てくれたの? 」と言い、笑顔に変わりました。
「うん」
「一人で?」
「そう。今日、当日券買えるかなと心配だったけど、買えてよかった。S君、頑張っているね。すごく上手だった」
「そう? ありがとう」
「あの、ハリー役の女性上手ね」
「うん、これからの演劇界を引っ張っていく人だよ」
「演出家も若いのね」
「うん、劇団を立ち上げて5年ぐらいかな。力のある人だよ。ところで、むっちゃん、4月の札幌の同窓会行くの」
「うん、行く予定。S君は?」
「僕は行かないけど、皆によろしくね」
「うん」
若手の活躍を見守り、支えるS君は素敵だなと思いました。最後にそれぞれの携帯電話で自撮りをして、さよならをしました。
階段を下りる途中に、出演者の一人がぽつんと立っていました。ファンや友人が来てくれる人はいいでしょうが、そうでない人はきっとこの時間が苦痛だろうなぁと想像しました。S君も、芝居の後は、こういう時間を何十回も何百回も過ごしたのかもしれない。仕事のオファーがないときは、孤独感や焦燥感も抱いたことだろうな、と想像しました。でも、一方で仲間と作品を作り上げる醍醐味も、自分の芝居が評価される喜びも味わってきたでしょう。だから、今のS君がいる。
S君の芝居をまた観に行こう。地に足をしっかりと着けて頑張っているS君の芝居を観て、励ましをもらおうーそう思って帰路に着いたのでした。
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