私の家から車で5分ほどのところに、品の良いスーパーがあります。欧米からの輸入食品や雑貨、日本の厳選された食材が置いてあり、価格は少し高め。でも、ここで販売している魚や肉は新鮮で美味しいので、時折ここに買い物に行きます。
一昨年ぐらいからでしょうか。そこのお肉売り場で夕方「フードロスにご協力を」というPOPが掲げられるようになりました。そこでは、値下げシールが貼ってあるお肉が置いてあります。その日や翌日に賞味期限を迎える豚や鶏の挽肉、牛ステーキ、骨付きラム肉など。時々、良いのがあれば購入します。
スーパーのお肉売り場に掲げてあるPOP |
それにしても、良い表現だなぁと思います。言い方ひとつで、買う人の気持ちは変わるもの。値段が下がっているから買うというより、フードロスに協力していると思うほうがずっと気分が良い。
先日、別のスーパーで”協力”しました。ししゃもを買いました。この店ではそんな上品な言葉は使いません。ただただ、20%オフとか30%オフとかのシールが生鮮食品に貼ってあるだけ。ここも価格が比較的高い店なのですが、駅の横にあり便利なので、いつもお客さんがいっぱい。最近は物価がじわりと上がってきたからでしょうか。夕方店員さんがセールの値札を付けると、あっという間になくなっていきます。
で、その北海道産のししゃも。普段の値段は5尾で2500円ですが、その日は翌日の賞味期限でなんと半額になっていましたので、購入しました。一人一尾ですので、夕ご飯のメニューに添えるぐらいでしたが、子供たちは大喜び。
美味しかったししゃも |
娘は「今日は、どうしようかなぁ、頭から食べようかなぁ、尻尾から食べようかなぁ」としばし考えます。
「ししゃもは頭から食べると頭が良くなる、尻尾から食べると足が速くなるってばあち(私の母)に教えてもらってから、いつも食べるときにどっちから食べるか迷ったなぁ。私、頭も良くなかったし、足も遅かったから、小さいころは究極の選択だった」と苦笑い。
夫はタツおばさんの話です。ししゃもの産地の北海道むかわ町に住んでいたタツおばさんは私が病気を患っているとき、よく、ししゃもを送ってくれました。ししゃもの中に、紙に何気なく包んだ5千円札が入っていて、おばさんの優しさにじんときたものです。
「タツおばさん、優しい人だったよなぁ。あのときは、美味しいししゃもをたくさん食べられて、幸せだった」と夫。タツおばさんはもう大分前に亡くなりましたが、ししゃもを食べるたびに私と夫はタツおばさんの話をして、しみじみとした気持ちになります。
先日の母の誕生日会で、その半額のししゃもの話をしました。すると、母が「あんた、前、あそこで売ってるししゃも買ってきてくれたでしょう。とっても美味しくて、あれからあの店に行ったときに値段を見てみるけど、高くてとても買えない」と苦笑い。
「分かるよ。高過ぎるよね。あっという間に食べ終わるし。今回、私も半額だったから買えたもの。そうそう、食べながらタツおばさんの思い出話になったよ」と私。「タツ義姉さんは本当にいい人だった。私にもあんたにもよくしてくれた…」と母。
母は、懐かしそうに目を細めました。むかわ町出身の母は「私が小さいころ、一度だけ、ししゃもが大量に川に上がってきたことがあったの。町の人々が皆でバケツを持って川に取りにいった。すごい量が採れてね、おなかいっぱいししゃもを食べた」と昔話をしてくれました。
「川にししゃもが上がってくるの?」と驚く娘。
「そうだよ。本当にあのときはすごかった。後にも先にもあのときだけだったけどね。昔はむかわ町の海でたくさんししゃもが採れたのに、もう全然採れないみたい。今は釧路から買って売っているようだよ」
「そうなんだ、釧路から?」と私。
「そうみたい。ほら、トコねっちゃん(母の姉)の家はししゃもを売っていたでしょ。芸能人も買いに来たほどだったんだよ。あのときはトコねっちゃんの家は家族総出で店をしていたんだよ」
普段高くて手が出ないししゃもを安く買えたことで、家族でししゃもにまつわる懐かしい思い出が出来ました。フードロスに協力すると、良いこと尽くめです。