私の母は現在87歳で、我が家から徒歩5分ほどのところにある賃貸マンションで一人暮らしをしています。今も私には一切頼らず、一人で食料品や日用品の買い物をし、食事を自分で作り、病院や歯医者さんにも一人で通っています。今日は、母の悩みの種である手のしびれを診てもらうための病院探しで見せてくれた、あっぱれな行動力について報告したいと思います。
母が、「手のしびれが耐えられない。病院選びを手伝ってほしい」と言ってきたのが日曜日の朝。私が電話でニセコ旅行の報告をしたときでした。
「あんた、いろいろインターネットで調べるの得意でしょ? 私、インターネットできないから調べてくれる?」
「いいよ。ちょっと待ってね、今、パソコン立ち上げるから」
「整形外科で薬をもらっているんだけど、全然効かないの。だから、脳神経外科か脳神経内科だと思って」
「了解。今、比較的近くの病院を調べるね」
「この前、テレビでHクリニックがいいって言っていたの。それもちょっと調べてくれない?」
「うん、あったよ。でも住宅街の中にあるようだよ。小さなクリニックだよ。もう少し大きい病院はどう?」
そうして、あれこれ病院を調べて、先生の人数や診察日・時間、駅からのアクセスなどを確認し、2つの総合病院に絞りました。病院のホームページで詳細を見てもらうため、ノートパソコンを持って母のところに行きました。私は携帯用のWi-Fiを持っていますので、母の家でもパソコンでネット検索が出来ます。
母の家に行き、ノートパソコンを立ち上げ、病院のホームページを見せると母は「すごいねぇ。こんなにいろいろ調べられるんだね」と感心します。母の携帯電話でも検索は出来るのですが、これまで「インターネットなんて使わなくたって生きていられる!」と豪語していたので、教えることもありませんでした。ですので、日曜日が母にとって、ホームページを見た初めての日だったのです。
クリックして病院の診療科、診察日、担当医師の名前や経歴などが書かれているページを見せていくと、母は「すごいねぇ」と興味深そうに画面に見入ります。
「お母さんの携帯電話でもネット検索できるんだよ。教えてあげる。覚えてみる?」と聞くと、母は「じゃあ、教えて」と言います。母の携帯電話でグーグル検索の仕方、そして画面に出てきた情報のどこをクリックすれば良いのかなどを教えました。
母に画面操作を教えながら、病院を決めました。母はその総合病院の脳神経内科の先生の名前と診療日をメモ書きしていました。そして、私が今朝、その病院に電話をして予約を入れると決め、私は自宅に戻りました。
寝支度をしていた夜10時ごろ、母から電話がありました。明るい声で、「自分で予約をしてみようと思う。自分で出来ることは自分でしたほうがボケ防止になるから」と言います。
そして今朝、再び母から電話がありました。気になっていたHクリニックについて携帯電話でネット検索したところ、なかなか良さそうなので、下見がてらに自分で行ってみるーと言います。私は今日は研究室に行く日なので、ついて行けません。母は「大丈夫だよ。自分で行けるから」と言います。
そして、今日の夕方、母から電話で報告がありました。母は一人でクリニックに行き、外観を見て、あまりよくないと判断し、自宅に戻り、総合病院に電話をして水曜日の予約を取ったと言います。
Hクリニックの最寄り駅はとても大きなJRの駅。母はその駅に行くのは初めてなので、自宅最寄り駅から駅員さんに尋ねながら電車を乗り継ぎ、その駅にたどり着き、タクシーを拾ってHクリニックに行ったと言います。JR駅は私でさえ苦手なのに、徒歩7分の住宅街のクリニックに自力で辿りついたのです。
「タクシーの運転手さんもおじいちゃんでね。Hクリニックのことを知らないの。で、メモに書いておいた住所を伝えたら、何やら調べてくれて、連れていってくれたよ。道がくねくねしていたけど、建物とか目印になるもの覚えていったから、帰りは駅まで迷わず歩いて帰れた。だから、今日は気分がいいの。自分はまだまだ大丈夫だって思えたからね」
いやぁ、我が母ながらあっぱれ。
Hクリニックについて母は、私が日曜日に教えたばかりのグーグル検索で調べていったそう。「あんたが教えてくれたでしょ。あの後、何度も復習したら、いろいろ調べられるようになってね。いやぁ、便利でびっくりしたよ。何でも分かるんだね」
そして、Hクリニックを目で見て確かめて、あまり良くなさそうだと判断してから、総合病院に電話をして、水曜日の予約を取り付けたそうです。
受付の人に生年月日を伝えたところ、「お子さんは一緒にいらっしゃいますか?って聞かれたから、いいえ、私一人で行きますって伝えたの」と母。
母は続けます。「でね、予約を取った後に、また、その病院の受付の人から確認の電話があってね、手のしびれだって言ってあるのに、また、何の診察で来るんですか?って聞くんだよ。で、あれっ、私ぼけていると思われているかな?って気づいたの。でね、受付の人が電話を切ったあともう一度検索したんだ」
「すごいね、お母さん、日曜日に教えたばかりなのに、もうそんなに調べられるの」
「そう。でね、予約してもらった先生のこと調べたらね、その先生いくつも認定医になっていてね、なんと、認知症の認定医にもなっているんだ。だから、私のこと、認知症の疑いがあるかもって受付の人が思ったんだね」
「おかあさん、すごいね。そんなことまで調べたんだね。さすが! で、水曜日だけど、私、付いていくからね」
「ありがとう。でもね、あんたがついていくと、ほら、説明なんかは私じゃ分からないと思われてあんたに説明するかもしれない。私はまだぼけていないからね、一人で行って、自分で説明聞いたほうがいいと思うから、いいよ、自分一人で行くから」
「お母さん、それも分かるんだけど、自分一人で先生の話を聞くより家族が一緒に行ったら、聞き漏れがないし、本人が聞かなかったことも家族が追加で聞けるじゃない?そういう意図で誰かが付き添うこともあるんだよ。だから、付き添いの人が一緒に行ったからボケているとは思われないないよ。お母さんが一人で先生の話を聞きたかったら、私は待合室で待っているというのはどう?」
「そうだね、それがいいかもね」
体のあちこちが痛くて、「まぁ、年だから仕方ないねぇ」と常々言っている母が今日は「気分がいい」と張りの良い声で話してくれました。いくつになっても、自分で出来ることは自分でする、新しいことにも挑戦してみる、という気持ちが大切なんだなと母を見ていて思うのでした。
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