2025年3月26日水曜日

息子の成績表

 息子が通う学校から、子どもたちに通知表を渡したので見てくださいと連絡がありました。先週のことです。

 息子が自主的に見せてくれるかと待っていましたが、その気配がないので、「通知表を渡したから、確認してくださいって連絡あったよ」と催促しました。「あっ、そうだった」と息子はとぼけた表情で、リュックサックの中に詰め込んでいるぐちゃぐちゃになった紙の束を取り出し、一枚一枚めくりました。そして、A4のペラペラの紙を差し出しました。

 目に飛び込んできたのは国語の「1」でした。成績は何段階かまずは確認し、5段階だと分かりました。その「1」という数字に、それをつけた先生の息子に対する感情が透けて見えたような気がしました。息子はテストの点数が悪いだけでなく、やる気も全くなく、学習態度も悪いということでしょう。

 つい、「これは何?」と責めてしまいそうになりましたが、ぐっと堪えました。子どもに対して感情的に叱ってはいけないそうです。また、他人との比較も駄目なんだそうです。悪いところではなく、良いところを見つける努力をするべきなのだそうです。ですので、まずは静かに理由を聞きました。

「一学期は2だったけど、1になっちゃったね。漢字が分からないのかな? それとも文章を書くのが難しいのかな?」

「テストの点数が悪いのはもちろんなんだけど、積極的に手を上げないからだと思う」

「うーん、積極的に手を上げないだけで1はつかないと思うよ」

「先生が嫌いなんだ。嫌なヤツなんだ。僕より点数が悪くて、授業も聞いていないクラスメートが4とか5とか取るんだ」

「そうなんだね。先生が嫌だったら勉強したくないのは分かるけど、だからって勉強することをやめたら、あなたが困ると思うよ」

「うん」

 これ以上追及するのはやめました。息子は漢字がかなり弱いので、数週間前から6年生の漢字ドリルをやらせています。比較的出来ていました。他に、何か根本的な問題があるのでしょう。他の科目を見てみると5はありませんが、英語と美術、理科は4です。日本で生まれて日本で育ち、日本の小学校に行った息子の国語が「1」。英語が「4」。

 私のせいだと思いました。英語に比べて、日本語はずっと難しい。漢字など基礎ををつけるときにしっかりと丁寧に見てあげなかった自分のせいだと思いました。今、向き合わなければ、きっと、後から息子と向き合わなかったことを後悔すると思いました。

「国語の教科書見せてくれる?」

「えっー?」

「どんなこと勉強しているか知りたいの」

 息子はブツブツ言いながら、自分の部屋から国語の教科書を持ってきました。パラパラめくると、かなり難しいことが分かりました。息子はこれらを理解出来ていなかったのでは?と思いました。

「あっ、ヘルマン=ヘッセの『少年の日の思い出』だね。ママ、ヘッセが大好きなの。これを一緒に読まない?」

「えっー? いいよ。だって、内容分かるもん」

「本当? じゃあ、教えて」

 息子が話してくれた、この話のあらすじはあっていました。感想を聞いてみると、きちんと答えてくれました。本をさらにめくると、「広がる本の世界」と題して、たくさんの本が紹介されていました。ミヒャエル=エンデの「モモ」が目にとまりました。

「モモはうちにあるね」。ダイニングテーブルの後ろの本棚には絵本が入れてあり、そこにオレンジ色の装丁の「モモ」を置いてあります。息子が読まないかな?と期待して置いてあったのですが、全く興味を示しませんでした。そこから本を取り出しました。布の装丁の肌触りが良く、手にしっくりときました。

「モモをママと一緒に読む?」

「いいね、モモ」

 しぶるかと思いきや、良い反応が返ってきて、びっくり。まぁ、もう話を切り上げたかったのだと思いますが、さっそく読むことにしました。第1章を開くと、息子は黙ってそのページを見ます。

「声だそうよ」

「何で? 声ださなくたっていいじゃん」

「声に出したほうが、お互いに分かるじゃない。ママも読むから」

 まずは息子が読み始めて、区切りの良いところで私に代わり、また区切りの良いところで息子に代わるー。そういう形で読むことにしました。久しぶりに読んだモモの出だしの文章に、わくわくしました。

 そういえば、室蘭(前の会社の初任地)に私設文庫があって、その代表の方がモモが大好きだったことを思い出しました。その方の名前も顔も忘れてしまいましたが、モモの良さについて、とても嬉しそうに語ってくれた場面が記憶の中から浮かび上がってきました。息子との読書はきっと楽しいだろうーと良い予感がしました。

 今日は第2章でした。息子の横に座って、かわりばんこに読みました。明日は第3章です。このまま続けられたら、いいなぁ。読み終わった後、息子に成績のことを軽く確認しました。

「来学期は1から脱出しようね」

「まっ、とりあえず、1から2にあげるよう頑張るよ」

 息子はとぼけた表情で、そう答えました。欲張らず、一歩一歩です。あーあ、子育てはひと筋縄ではいかないものですね。

 

 

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