昨日、新たに覚えたインターネット検索と持ち前の行動力で病院探しをした母。自信をつけて気分良く寝たはずでしたが、今朝6時45分ごろ弱々しい声で電話がきました。
「足と手のしびれだけでなく、顔もしびれてきたの。もう、心細くて。朝早くてごめんね」と言います。とても不安そうです。
母がこんな朝早く電話をくれるのは大変珍しいので、かなり症状が悪いのでしょう。詳しく聞くと、左半身だけがしびれると言います。私の父は62歳のときに脳梗塞になり左半身が不自由になりました。もしかしたら、脳梗塞の兆候かもしれないと思いました。
「お母さん、病院行こう。明日午後2時から脳神経内科の予約があるけど、待たないほうがいいと思う」。昨日、検討したもう一つの病院に行くことにしました。
「7時半ぐらいに迎えに行くから、支度をしていて。私、今日は申し訳ないけどキャンセルできない予定があるの。でも、病院には連れていけるから」。
母は涙声で「ありがとう。じゃあ、待っているね」と電話を切りました。
タイミングが悪いことに、今日は車を車検に出す日でした。約束していた入庫時間は午前9時、そして私は指導教員との面談の予約が10時に入っていました。指導教員は大変忙しい人ですので、年に数回しか話が出来ません。ですので、これを逃したら、指針がないままに博士課程4年目に突入することになります。ですので、キャンセルは出来ません。
すでに起きていた夫に伝えると、夫は車で私と息子、母を病院に連れて行って、その足で車を持って行ってくれると言います。春休み中の息子も起こしました。準備をして母のマンションへ。
夫と息子に車で待っていてもらい、マンションの4階に住む母を迎えに行きました。母はちょうど、朝食を食べているところでした。あんなに弱々しい声を出していた母でしたが、きちんと着替えてお化粧をし、お皿に枝豆と温泉卵、そして湯むきしたトマト、バナナを綺麗に並べ、おかゆを食べているところでした。それを見て、母は大丈夫だ、と思いました。
母が食事を終え、歯を磨き、身支度をするのを待ちました。母はこんなときでも、3本の歯ブラシを使って、きちんと歯磨きをしていました。母は歯の調子が悪く、下の歯が入れ歯なので、いろいろ手入れの方法があるのでしょう。そして、電気を消し、エアコンのスイッチを切って、雨が降っているので、傘も忘れずに家を出ました。もちろん、バッグの中には保険証、お薬手帳、薬もきちんと入っていました。
息子は起こすのに時間がかかりましたが、文句も言わず、ついてきてくれました。病院に着くとまだ受付が始まっていませんので、整理券を取ります。ここで私は息子に母を託しました。
「で、僕はどうすればいいの?」
「ばあち(母のことを子どもたちはそう呼んでいます)の側について、一緒に先生のお話を聞いてくれる? ママは研究室に行かなければならないし、ダディは車を車検に持って行かなければならないから、あなたがしっかりしてね。診察が終わって、家に帰れるようだったら、駅の近くにミスタードーナツがあるから、ばあちにおごってもらってね。入院ということになったら、ママとダディにすぐ連絡してね」
「オッケー」
息子は整理券を持つ母の横に座り、携帯電話でゲームをし始めました。ゲーム三昧の息子ですが、こうして、祖母の病院に付き添ってくれる優しさがあることを有難く思うべきでしょう。
私は息子と母を病院の待合室に置いて、夫が待つ車に戻りました。夫は最寄り駅に私を降ろし、車を預けに行きました。満員電車に乗って研究室に向かう途中、母からメッセージがありました。病院の受付で脳神経内科は予約が必要なので、まずは総合内科に行ってくださいと言われたと書いてあります。総合内科に行くと余分な時間がかかります。
電車を降り、母に電話をしました。「今日、診てもらったほうがいいから、お母さん、昨日予約を取った病院に行ってくれる? 明日の午後2時に予約した人が今日来たということはよほど具合が悪いということだから、きっと診てくれると思う」
「私もここで総合内科に診てもらうより、別の病院に行ったほうがいい」言います。母に電車の乗り換えの説明をすると、タクシーで行くと言います。「お金はちゃんと持ってきたから大丈夫」と母。こういう緊急時にもきちんと現金を準備してくれて、助かるなぁと思いました。私は慌ただしくて、息子に現金を渡すなどという気が回らなかったのです。
私は研究室へ、夫は車の車検へ、そして母と息子はもう一つの病院へ。結局、そこの病院では火曜日は脳神経内科の先生がいないということで、診察してもらえませんでした。診察してもらえませんでしたが、2つの病院に行ったことで母も納得し、私たち家族が全面的にサポートしているので安心したようで、体調も落ち着いたようです。一刻を争うような緊急時でもなさそうです。
夫から車を置いて、電車に乗り、ちょうど母と息子が行った病院の近くまで来たという連絡がありました。夫と母、息子は無事合流し、家に戻ることになりました。夫は昼食にタコスを作ってくれたようで、母から電話があり「衝撃的に美味しかった!」と言い、ちゃんとある程度の量を食べてくれたようです。
そして、夫は午後からのオンラインの会議に参加し、母は我が家の2階のソファでのんびりし、息子は相変わらずゲームをして、私の帰りを待ってくれました。が、母から午後3時ごろメールがあり、「申し訳ないので、帰る」と書いてあります。私は指導教員との面談のあと、会議が続いており、まだ帰れないでいました。
夫からもメールがあり、「お母さんが帰ると言っているんだけど、心配だから、今日は僕らがお母さんの様子をみたほうがいいと思う。今日はここに泊まったほうがいい」と書いてあります。息子からも「ばあちが帰るって言っているんだけど、どうする?」というテキストメッセージが。
私は母にメッセージを書きました。
「お母さん、今日はうちにいてほしい。体調悪化したら困るから」
「でも、やっぱり、あんたのうちでは寝られないし」
「お母さん、それも分かるけど、自分の家に戻って寝てまた夜不安になるより、うちで家族と一緒にいた方が安心じゃない? 私がお母さんの家に行って寝ることも出来るけど、何かあったときに、やっぱり私一人より、三人いたほうが手分けして対応できるし。今日はお母さん、うちにいてくれる?」
母に電話をすると、「やっぱり、帰る」と言います。仕方ないので、すぐ帰宅して、母のマンションに一緒に行って、今日は母のマンションで寝ることにしました。研究所を出て、電車に乗り、家路を急ぎました。あと20分ほどで家に着くというときに母からメッセージがありました。
「なんかおかしいの。やっぱり帰らないほうがいいかもしれない」