2022年10月9日日曜日

アニー・エルノーさんノーベル文学賞受賞

  2022年のノーベル文学賞が、フランスの作家アニー・エルノーさんに授与されることが決まりました。自伝的小説が多くのファンに愛され、そして文学界でも評価されてきた作家です。報道によると、今回の授賞理由は「個人的な記憶のルーツや疎外感、集団的抑圧を明らかにする勇気と鋭さ」だそうです。


 私は新聞記者時代、エルノーさんを取材したことがあります。物置からスクラップブックを取り出し久しぶりにめくって、当時のことを思い出しました。


 インタビューしたのは、2004年5月。早川書房から「嫉妬」の翻訳が出版されたときでした。エルノーさんは知的で美しく、そして、とてもチャーミングな方でした。インタビューでエルノーさんは自らの体験をつづることについて、こう語っています。

「書くことによって、自分に起こったことは何なのかを理解したいのです。書くことにより浮かび上がってくる固有の体験を一般的なものにしていきたい。私がつづったテクストは、一つの証言であると考えています」

 今回のエルノーさんのノーベル文学賞受賞で、エルノーさんが自身の文章について「テキスト」という表現を使っていたことを思い出しました。「嫉妬」という作品では、別れた恋人に新しく付き合っている女性がいると知り、妄執に取りつかれていく様子を描いています。胸がえぐれるような自身の体験をテキストに落とし込んでいったエルノーさんの作家としての力量に改めて敬意を表したいと思いました。

 私はふと自分の研究テーマについて考えました。私の研究テーマは自分のがん闘病体験から気付いた疑問が端緒になっています。自分の体験による気付きを研究テーマにすることは、客観性という観点で、私のような医学のバックグラウンドがない人間には難しいと指摘を受けています。

 エルノーさんは雲の上の人ですが、自分の体験を文学作品に昇華させたエルノーさんを見習い、エルノーさんを目標に、私も頑張らなければと思いました。

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