2022年10月18日火曜日

父の名刺入れ

  時折、札幌の実家のことを考えます。母と一緒に不動産会社に売却の手続きをしに行ったのは8月末。その後すぐ取り壊すということでしたので、もう、実家があった場所は更地になっているでしょう。実家がなくなってしまうのは、こんなに寂しいものなんだと初めて気付きました。

 雛人形や、子どもたちが小さいころに遊んだおもちゃ、結婚したときに母が夫のために買ってくれた布団、飾り物、父のアルバム…出来るだけこちらに持ってきましたが、もちろん全てを持ち帰るわけにもいかず、かなりのものを残してきました。

 その中にあったのが、小さな鍋でした。母がそれでよく鍋焼きうどんを作ってくれた思い出があります。でも、我が家のキッチンにはスペースがなく、持ち帰ることが出来ませんでした。一旦はそうして決めたはずなのに、その鍋のことを最近、頻繁に思い出します。持ってくればよかったなと後悔しています。私は思い出の物への思いが強過ぎて、こうして自分自身を持て余すことがあります。

 実家には父のものがほとんど残っていませんでしたが、幸運なことに父の机の引き出しに未使用の名刺入れを発見し、それは持ち帰ることが出来ました。紺色の皮製で、裏側に「創立10周年記念 開萌会」と名入れが施されています。おそらく、建設会社に勤務していた父が北海道の留萌市に単身赴任し仕事をしていたときの、業者さんたちの集まりか何かの記念品ではないかと想像しています。

 今、それをバッグの中に入れて持ち歩いています。母は近くに住んで元気にしていますし、こうして父の物をいつも持ち歩いていることで、心が落ち着きます。そんな風にして、実家がなくなった寂しさに折り合いをつけています。

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