2016年2月2日火曜日

 「ボケるのが一番嫌だ」ー。今回の4日間の札幌帰省で、78歳の母が頻繁に言っていた言葉です。友達のご主人など、身近で認知症を患う人が増え、病気が進行するとどうなるかーということを実感を持って理解するようになったためです。自分のウンチを壁に塗りたくる、幻覚を見て叫ぶ、近所を徘徊する・・・。母が友達から聞かされる夫の愚痴や実際に母の知人の女性がそうなっている話はどれも深刻。母が認知症だけは嫌だーと願うのは十分理解できました。

 母は、ボケないための切実なまでの努力を暮らしのあらゆる場面でしていました。一人娘の私は東京暮らしで、30代後半から大病を患い病気がち。さらにあろうことか、勝手に46歳で2人目の子供を出産してしまったため、全く頼りになりません。

 自分の60代から70代前半は弱々しい娘の代わりに、半身が不自由な夫を引き連れ東京に来ては、孫育てや家事を引き受けてきたほどで、母娘の頼り頼られる関係はふつうとは逆です。「娘には迷惑をかけられぬ」という思いが母の気持ちの柱となっているため、心身ともに健康を保つ努力は、娘の私が感心する、いいえ申し訳なく思うほどなのです。

 朝、昼、晩と栄養を考え手作りの食事をとっているのは言うまでもありません。テーブルには時に花を飾り、彩り良くおかずを皿に装います。「今日のランチ」と題する写メールを私に送ってきます。起床時は布団の上で体操。夏は車を運転してスーパーやデパートに買い物に行きます。先日も「やっぱり車はまだ手放せない」と運転免許を更新してきたばかり。近所の人と立ち話をしたり、友達とランチをしたり、と人と積極的に話をしています。季節感を忘れないため、玄関にはその季節の花を活け、クリスマスや雛祭りなどの行事の飾りも欠かしません。娘が30年(!)も前に成人式に着た振袖を、9年後に孫娘に着させるための虫干しも、毎年欠かしたことがありません。

 母は毎朝、父の仏壇に手を合わせ、お経を読みます。読み始める前に、「2016年、平成28年1月16日土曜日・・・」と、西暦と元号の両方の年を言い、日付と曜日も続けます。日付を思わず忘れてしまう私とは大違い。こういう日々の心構えが、実は大きな差になるのではと思い知らされます。

 新聞は隅から隅まで読み、意味が不確かな漢字や、読み方が分からない漢字は必ず辞書で調べます。裏側が白い広告を見開いた新聞の上に乗せ、その上にマジックで調べたばかりの漢字を練習します。ついでに、忘れがちな漢字もせっせと練習します。

 世の中の情報についていくための努力も欠かしません。今回驚いたのは、私が置いていった(何十年も前です)ぬいぐるみ一体一体に名前を付けて、毎朝、呼びかけているのです。その名前を耳にしたとき、私は「そう、きたか」と思わず、うなりました。

 「ノーベル生理学・医学賞の大村智さん、おはようございます」
 「ノーベル物理学賞の梶田隆章さん、おはようございます」

 世の中広しと言えども、ボケ防止のために、ノーベル賞受賞者の名前をぬいぐるみにつけて呼びかける人はいないでしょう。母、あっぱれ。
左の犬が、ノーベル生理学・医学賞の大村智さん、右の犬がノーベル物理学賞の梶田隆章さん
                
 
 

 

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