2016年1月12日火曜日

スープに氷

 日曜の夜、夫がネギスープを作ってくれました。前日、きりたんぽ鍋で使った下仁田ネギが残ったので、「美味しいスープを作って」と頼んだのです。うちは夫婦で料理好き。特に夫は、創作料理も得意なので、食材が余ったときや、レストランで食べた料理をまた食べたいときなど、リクエストするのです。

 おいしそうなスープと、私の豚肉料理も出来上がり、さあ、いただきましょうというとき。スープをよそった子供たちのスープ皿に、夫が氷をカランと入れたのです。

 出来立てのスープは熱い。11歳の娘はまだしも、4歳の息子は熱くて食べられない。でも、それはないでしょう、と私は文句を言いたくなりました。どうして、ボウルに氷水をはって、その中にスープ皿を入れて冷まさないのよ、と言いそうになりました。でも、私はその言葉を飲み込みます。夫の機嫌を損ねたくないからです。

 熱いスープを冷ますのに、氷を入れるー。この発想はどこから来るのでしょうか。手間をかけることを嫌う夫の性格からでしょうか。アメリカ人というアバウトな国民性のなせるわざでしょうか。男子4人を働きながら育て上げた義母が、忙し過ぎる日常の中で時間短縮のために考えた方法を、夫が素直に受け継いだのでしょうか。それとも、このことに疑問を持つ私が神経質なのでしょうか。

 ひと手間をかける。日本料理の繊細な美味しさは、この努力抜きには出来ません。逆に夫の料理は大雑把。でも、その大雑把さがダイナミックな料理につながります。私はそのダイナミックな料理が大好きです。ですので、「ひと手間」を夫に望むのは酷と考えるべきでしょう。でも、スープに氷はたとえ子供の食事とはいえ、手間を省き過ぎではないかーと私は思うのです。

 手間をかけない。これは、合理性を尊ぶアメリカ人の夫の行動のすべてにつながります。たとえば、リンゴの切り方。シンプルに真っ二つに切って、芯をのぞくことはしません。芯の部分を避けて、つまり、外側から3分の1のところにナイフを入れます。そして、桃。皮はむきません。夫に桃を切ってもらった子供たちは、「皮に毛があって嫌だ」と言います。それは、そうでしょう。桃は皮をむいて食べるものなんです。

 何もしない夫を持つ妻たちには、「やってくれるだけ良い。文句を言うなんて贅沢」と言われるかもしれません。また、寛容な妻たちは「熱いスープを冷まして子供に出してくれるなんて、気の利く夫ね。氷を入れると味も薄まるし、一石二鳥じゃない?」と言うかもしれません。ですので、私は、ここで立ち止まって考えます。

 今止めなければ将来、娘や息子が自分の子供のスープに氷を入れてしまうようになるー。だから、止めてもらうよう夫に頼むべきではないか。でも、食事を作ってくれる夫に、こんな些細なことで文句を言うは正しくないのではないかー。心の中で、そんなせめぎ合いをしています。

 日曜日は結局、言えませんでした。子供たちが食べ始める前に氷がスープの中で溶けるよう、ただただ、念じていました。
 

 
 

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