中学受験3日目の午前11時半、私は息子が試験会場から戻ってくるのを保護者待合室で待っていました。お昼ご飯を食べさせながら、昨日の午前・午後に受験した学校が両方とも不合格になったことを息子に伝え、その日の午後に出願している学校2校のいずれを受験するか、決めなければなりません。どちらの学校を受験させるべきか、私自身も決めかねていました。
息子が試験会場から戻ってきました。
「どうだった?」
「算数も英語もまぁまぁできたよ」と息子。「で、昨日の結果は分かった?」
「2つともダメだった」
「そう。そうだと思った。あーあ、お腹すいた」
「好きなもの食べていいよ。何がいい? ハンバーガー? カツ? パスタ?」
駅の近くにある、商店街に向かいました。おしゃれなレストランが何店も入っているビルの横にキッチンカーが止まっていて、美味しそうなハンバーガーを売っていました。ラッキーなことに、テーブルが開いていました。
「ハンバーガー食べる?」
「うん!」
テーブルに座り、ハンバーガーができるのを待ちました。私は牛肉が苦手なので、他の店で何か買おうかと考えましたが、全く食欲がありません。ハンバーガーが出来、息子がそれをほおばるのを見ていました。
「午後、どっち受ける?」
「どっちでもいい」
「じゃあ、とりあえず、●●に行く?」
そこは授業のほとんどが英語で行われるコースがある学校で、受験科目は英語・国語・算数の3教科。人気が高くなっている学校だそうで、息子が合格をいただけるかどうかは全く自信がありません。でも、国語・算数の2科目受験で、1日の午後に受験をして不合格になっている学校よりは、チャンスがありそうな気がしました。
塾の先生によると、もう一つの学校はたとえ1日に不合格でも、まだ合格をもらえやすいということでしたが、息子はたとえそこから合格をいただいても行きたくないと言います。「合格」をもらうために、行きたくないと言っている学校を受験させるのもかわいそうです。かと言って、もう一つの学校が不合格になれば、この3年間は何だったのか?と考えるに違いありません。
電車を乗り継いで、学校に着きました。が、まだ決めかねていました。今なら、塾の先生が合格をいただけるかもしれないーと言っていた学校の集合時刻に十分間に合います。
「ねぇ、どうしたい?」
「ママ、どっちでもいいんだよ。昨日だって、一昨日だって、試験はまぁまぁ出来たんだよ。出来たと思った学校がことごとく不合格なんだ。それほど僕は頭が悪いんだ。どうせ、不合格なんだから、どっちでもいいんだよ」
「でも、もしかしたら、今日受ける学校で合格がもらえるかもしれないじゃない?」
「ママが決めてよ。僕はどっちでもいいんだ」
「でも、これはあなたが行く学校でしょ」
「ママ、どうせ落ちるんだよ。だから、どっちでもいいんだよ」
息子は決めるつもりはないようです。でも、私もまだ気持ちが揺れていました。どちらが良いか迷っていました。勘も働きません。でも、ぐるぐる考えているうちに、少しずつ考えがまとまってきそうでした。夫に電話をしてみました。夫の意見を聞きましたが、夫も判断できないようでした。
「君の決断に任せるよ」
いつもの夫の答えでした。昔はこの言葉は私を尊重してくれているのだと受け止めていましたが、長年生活を共にしてきて、この答えは自分の判断に自信が持てないからだとわかっています。私は言い返しました。
「どうして、私の判断に任せるの? この重要な決断時に。あなたに、父親として、どう判断しますか?と聞いているの。もうすでに4回も不合格なの。今受けてきた学校の定員は15人だから、可能性はほぼゼロ。今、私たちの目の前にある学校は人気が出ている学校でここも受かる可能性は低いと思う。もう1校はすでに1日に受験して落ちている学校で、かつ息子が合格しても行きたくないと言っている学校。あそこも良い学校だと思うけど、あの子がどうして行きたくないと思ってしまったか分からない。どう思う? チャンスにかける?それとも、塾の先生の助言に従って『合格』をもらえる可能性が少しでもある学校を受験して、『合格』の連絡を待つ? いずれにしても全部落ちたら、あの子に立ち直ってもらうよう、自信を持って生きてもらえるよう、私たちも努力しなければダメだと思う」
「…。僕は●●がいいと思う」
夫が小さな声で言いました。私と同じ考えでした。
「私もそう思う。じゃあ、そうしましょう。まだ集合時間まで時間があるから、カフェに入って温かい飲み物飲ませるね」
「じゃあ、僕はインターナショナルスクールをもう少し調べてみるよ」。そう言って、夫は電話を切りました。
息子に言いました。「ダディとママは、ここを受験したほうが良いと思うけど、どう?」
「うん、そうするよ」と息子は素直に答えました。目の前にあるカフェに入りました。そこには何組かの親子がいました。この学校の過去問を開いて解いている子、算数の問題を解いている子、どの子もギリギリの時間まで勉強しているようです。
息子はホットドッグとジュースを、私はカフェラテをオーダーしました。席に座ると息子が「携帯貸して?」と言います。息子はグーグルに「東京 高校」と入力し、都内の高校の名前を検索し始めました。「結構、受験できる高校あるんだね」とつぶやく息子。全部落ちたら、地元の公立校に行って再び塾に通い、高校受験をするというシナリオも見えてきたのでしょう。
集合時間が近付きました。また、たくさんの親子が学校に来ていました。静かに並んで待ちます。「保護者の方はここで、お見送りをしていただきます」と係の人が説明します。「頑張ってね」。息子は黙ってうなずいて、試験会場に向かいました。
長丁場なので、一旦自宅に戻りました。前日まで、私が朝息子を学校に送り、昼食を食べさせ、午後の学校に連れて行き、夫が迎えに行くという役割分担をしていました。でも、この日は私も夫と一緒に迎えに行きました。
午後5時半、息子が試験会場から戻ってきました。私と夫が二人で迎えに行ったのが嬉しかったのでしょう。息子の顔には少し笑顔が戻っていました。「お疲れさま」。息子はこくりとうなずきました。
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