2015年12月23日水曜日

千住真理子さん演奏会

  ヴァイオリニスト千住真理子さんの演奏会に20日、娘と一緒に行ってきました。演奏会は休憩時間を挟んで3時間。オーケストラのサポートも、ピアノの伴奏もなく、青いドレスをまとった千住さんは、自ら奏でるヴァイオリン演奏だけで、東京オペラシティコンサートホールの聴衆を魅了し続けました。

 ヴァイオリンを習う娘に聴かせてあげたいという目的でチケットを買ったのですが、当の娘は前半から、寝息を立てています。何度か起こしましたがあきらめ、私は演奏会を楽しむことにしました。美しい旋律にうっとりと聞き惚れました。「千住真理子の世界」にすっかり取り込まれました。ストラディヴァリウス「デュランティ」を奏でる千住さんを見つめながら、天国のお母様がどれほど、千住さんの活躍を喜び、誇らしく思っていらっしゃるかと思うと、涙が止まらなくなりました。

  千住さんは私より年上の53歳です。お母様については本や雑誌の記事などメディアを通じてしか存じ上げませんが、日本画家の博さん、作曲家の明さん、そしてヴァイオリニストの真理子さんの芸術家三きょうだいを育て上げた方として、以前から敬服の念を抱いていました。
 
 世に名をはせた人たちの多くは幼少期、その母や父に献身的に支えられています。「親はなくとも子は育つ」と言いますが、やはり、スポーツ選手や音楽家などは、親がつきっきりで子供の才能を伸ばす努力をしたケースは多い。ヴァイオリニストでは五嶋みどりさんがお母様の節さんと二人三脚で音楽家への道を歩まれたことは有名ですし、千住さんもそうだったといいます。ピアニストの辻井伸行さんもお母様が大変な努力をされたと聞きました。

 各界で活躍されている方々のお母様方と私を、同列で語るのはおこがましいと十分承知はしていますが、子供は生まれたときは真っ新(遺伝子が違うという話はあるでしょうが)で、かつ、母親が持つ時間は同じです。ましてや、私は専業主婦。ですので、いろいろと子供に手をかけることは出来たはずです。が、体力、気力、そしてやる気の面でも、子供の習い事や勉強に情熱を持って付き添うことは出来ませんでした。

 楽器を買い与え、お教室の送迎も何とかこなし、「練習しなさい」の言葉がけや、たまに演奏会などに連れていくことぐらいはしました。が、それで精一杯。自分の人生をかけるような気持ちで、子供の才能(あるかどうかは分かりませんが)を伸ばす努力は出来ませんでした。ですので、子供三人をあれほどまでに立派に育て上げた千住文子さんには、尊敬、いや畏怖の念すら抱くのです。

 千住さんの演奏会の後、私と娘は軽食を取り、家路につきました。娘の帰宅を待っていた夫は、「演奏会は良かったかい?」とだけ聞き、娘と息子と毛布にくるまってソファに座り、アメリカの映画を見始めました。演奏会の余韻が残っていた私には、その映画の音声は騒音にしか聞こえませんでしたが、娘や夫は大声を立てて笑っています。

 千住さんの演奏に刺激を受けて、最近替えたばかりのフルサイズのヴァイオリンを手に取り、何か弾いてくれるのではとの期待は見事に打ち破られました。が、私はそこで「せっかく、すばらしい演奏を聴いてきたのでしょ。少し練習したら?」とは言いません。「まあ、いいや」と、化粧を落とし、お風呂に入ります。そして、読みかけの本を手に取り、ベッドに入って、自分だけの束の間の時間を楽しみます。

 おそらく、千住文子さんや五嶋節さんや辻井いつ子さんには、この「まあ、いいや」がなかったに違いありません。この親の妥協が、子供の将来の差につながるのだろうなとうっすらと気付きつつ、改められない日々です。

 
 
 


 

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