2015年12月14日月曜日

忘年会

 夫の会社の忘年会に子供たちと一緒に参加しました。近未来都市を連想させる横浜・みなとみらいにある新しいビル。会場となるイタリアンレストランが入ったそのビルは美しいイルミネーションで彩られ、幻想的な雰囲気を醸し出しています。私は久しぶりに華やかな気分になり、レストランのドアを開けました。

  クリスマスの赤い帽子を被った若い社員に出迎えられ、私たちは中に入ります。40代の若い社長もにこやかに私たちを出迎えます。コート類を預け、カウンターに並べらえたグラスワインを手に取ります。気の利いたビュッフェスタイルの料理がカウンターの横のテーブルに並んでいます。夫に連れられ、同僚たちに挨拶をします。日本人にはもちろん、「いつもお世話になっております」という決まり文句。外国人には「Hi, how are you?」。

  一年間の働きに対する慰労会。ワインを傾け、笑い声を立てながら会話する男女。学校帰りの子供たちを連れて現れた女性社員と彼女の夫。端のテーブルで、鷹揚な雰囲気で話す上司と真剣な表情で話を聞く部下。少しおどけた口調で会を進行する若い男性・・・。

壁に並べられた椅子の端に座り、白い皿に乗せたオードブルをつまむ私は、それらの光景を懐かしく少し切ない思いで眺めました。一人ぽつんと座る私の周りには、おそらく所在無げな雰囲気が漂っていたに違いありません。

  私の前にある光景は、私が手放したものでした。やりがいのある仕事、同僚との時に知的な時にふざけた会話、仕事を終えてほっと一息ついて飲むおいしいお酒・・・。大病の後の39歳での妊娠で、後ろ髪を引かれる思いで辞めた仕事。「二兎を追うもの一兎をも得ず」と自分自身に言い聞かせ、納得して辞めたものの、このような“職場”の雰囲気に久しぶりに触れると、手放したものがたまらなく懐かしくなるのです。

  手持無沙汰なため、子供にかまいながら私は時間をやり過ごします。夫の職場の会合に出席する、専業主婦の妻の典型的な姿なのだろうなと、私は心の中で苦笑します。酔うわけにもいかないのでワインも二杯で終わり。幸運なことに、息子がレストランの外にあるおしゃれなブランコに興味を示してくれました。私は寒さに震えながら、ブランコで遊ぶ息子を注意深く見守る母親の役割を数十分演じて、時間をつぶしました。

  会もたけなわとなり、夫が締めの挨拶をすることになりました。一年間を振り返り皆への感謝の言葉を英語で述べた夫は、最後に「それでは皆さん、お手を拝借」といきなり、日本語に切り替えました。言い間違え、助け舟を出してもらい、照れ笑いをしながら言い直した夫。が、日本の慣習に習って、手締めで会を終えた夫を、私は誇らしく思いました。

 そんな夫と、横で夫の手締めを不思議そうに見守る娘と息子を眺めながら、私は手放したものは大きかったけれど、得たものも大きかったのだと自身を納得させました。

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