2015年12月5日土曜日

ハンドベル

 息子の通う幼稚園で3日夕、園庭のイルミネーションの点灯式が行われ、園児の母親たちによるハンドベル演奏が披露されました。園とご縁がある雅楽演奏家の東儀秀樹さんもこの”ミニ演奏会”に加わってくださり、園児たちは素敵な時間を過ごしました。

 済んだ音色で奏でられたのは、「We wish you a Merry Christmas」などクリスマス曲4曲。私も2曲仲間に加わりました。両手にハンドベルを持ち、愛らしい子供たちを前に演奏したとき、思わず、目頭が熱くなりました。母親たちのハンドベルサークルに入り、子供の前で演奏するという長年の願いが叶ったという喜びで胸が一杯になったからです。

 今11歳の娘がこの幼稚園に入園したとき、私はちょうど、血液がん「悪性リンパ腫」の再々発を主治医に告げられたばかりのときでした。頭髪が全部抜けるという精神的にも辛い治療の経験から、主治医に「また、髪の毛が抜ける治療ですか?」と聞き、「髪の毛どころではありません」とたしなめられ、泣く泣く、抗がん剤治療を開始。結局、抗がん剤は効かず、続いた放射線治療で体調が悪化し、サークル活動どころか、娘の育児や家事もままならない時期が長く続きました。

 外見の問題もありました。悪性リンパ腫の他に自己免疫疾患も患っており、その治療のためステロイド剤を服用し、顔は風船のようにむくんでいました。また、左耳の下には6センチの両性腫瘍もあり、あまりの外見の醜さに友人・知人に会うのを避けていました。ましてや、人前に出るハンドベル演奏など出来るような心の状態ではありませんでした。

 当時の私は、白いセーターやブラウスを着て子供たちの前で演奏するママ友達を、園児たちの後ろで羨ましい気持ちで見ていたのです。

 今回の初めてのクリスマス演奏会で、私は白いセーターと白いニットスカート着ました。上の服が白であれば、スカートやズボンは何色でも良いのですが、私は上下を白にしたかった。
 「50歳のオバサンが白いスカートをはいたら、ちょっとイタイかも?」とためらう気持ちもありましたが、思い切りました。それほど、大切な日でした。そして、ハンドベルを振りながら、ああ夢が叶ったんだとしみじみとした思いに浸りました。

 演奏後、息子に「ねぇ、ママ素敵だった?」と聞いてみました。息子は私の言葉を繰り返し、「うん、ママ素敵だったよ」と言ってくれました。

 ハンドベル演奏の話を学校から帰宅した娘にしました。娘は少しすねた表情でこう言いました。
「どうして教えてくれなかったの?私、見に行ったのに」
「クラブがあるから、間に合わないと思って」
私はそう言い訳をしました。
「クラブなんて、休んでも良かった。ママのハンドベルが見たかった!」
娘は涙ぐんでいます。さらに、弟を羨みました。
「ママのハンドベルが見られて、恵まれている!ママが健康で恵まれている!私なんて、私なんて、いつもママの具合が悪くて…」
娘の顔がゆがみ、頬に涙が伝いました。

 念願が叶ったという高揚感で心が一杯になり、娘の気持ちに気付いてあげられなかった。私は「ごめんね。来年は絶対に見に来て!」と謝りました。
「うん!」
娘は涙を拭いて、元気に答えました。

 娘の明るさにまた、救われながら、来年のクリスマスは娘のためにハンドベルを演奏しようと心に決めたのでした。

2 件のコメント:

Unknown さんのコメント...

素敵なお話ですね!娘さんにこらから沢山元気な姿を見せてあげてください😊

マイヤーむつみ さんのコメント...

励ましをありがとうございます。これからも、元気なママでいたいと願ってます。ひろみさんもご自愛くださいね。