2015年12月13日日曜日

老眼鏡


 ふと横を向くと、夫が黒縁の老眼鏡をかけてプログラムを見ていました。娘の学校のクリスマス発表会を観賞していたときのことです。5歳年下の夫はこの春から、読書のときに老眼鏡をかけ始めました。が、その姿を外出先で見るのは初めてでした。まだ見慣れない夫の横顔に、違和感とちょっとしたおかしみを感じながら、私は舞台の子供たちに視線を戻しました。夫も年を取ったのだと実感する出来事でした。

  私には小5の娘と、幼稚園年少の息子がいます。幼子がいるのに、手元が見えないー。これは悩ましい”事件“です。日常的な不便さを解消するために10歳も20歳も若いママたちの前で、老眼鏡をバッグから取り出しかけるのは、気が引けます。逆に開き直って、その事実を笑いに変えるのも難しいのです。

 私はいわゆる“自虐ネタ”は好んで話すほうです。しかし、母乳をあげているとき我が子の顔がぼやけて困るーという話を大笑いしてくれるのは、アラフィフ以上の人たちです。それより若い人たちは分かったような、分からないような、含み笑いしかしてくれません。

  40歳直前に娘を出産して数年後から、老眼の兆候はありました。が、日常生活での不便さは感じませんでした。コンタクトで矯正した視力を1.2から1.0、そして運転に必要な0.8程度まで段階的に下げ、手元が見えるようになっていたからです。

  しかし、46歳で息子を産んだ後は違いました。不便さを実感しました。産科病棟での出来事です。帝王切開での出産で疲れ切った私にはコンタクトを付ける余裕はなく、メガネをかけて授乳室に向かいました。愛しい息子をベビーベッドから抱き上げ、おっぱいを含ませました。息子の顔は、ぼやけていました。メガネを頭の上に載せて見ると、息子の顔はクリアに見えました。以降、私は病室と授乳室の移動時はメガネをかけ、授乳の時はメガネを頭の上に上げることにしました。授乳室には常時、メガネをかけたママが複数いましたが、メガネの“上げ下ろし”をしていたのは、私だけでした。

 超高齢ママの“試練”は、この後も続きます。0・8まで下げたコンタクトでも、手元が見づらくなったのです。このときは、遠近両用コンタクトにしました。案件別の対処法も考えました。たとえば、学校に張り出された行事写真は、片目にだけコンタクトを入れて見ます。行事の当日、目立つ色の服や靴を履かせた我が子の姿が収められた写真は、コンタクトの入った目で探し、子供の表情はコンタクトが入っていない目で見て確認します。この話を笑ってくれるのも、アラフィフ以降の人たちです。

  さて、発表会の後、私たちは久しぶりにレストランで食事をしました。夫は老眼鏡をかけてメニューを見ます。遠近両用コンタクトをした私は、普通にメニューを広げ、注文しました。お店の人は、4歳の子供を連れた私を違和感なく、見てくれたでしょうか?

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