2016年12月1日木曜日

日本人ママの心配

  娘の通うインターナショナルスクールで、保護者向けに日本語の授業説明会がありました。公立校からインターに転校し、語彙力が落ちてきている娘の日本語教育をどうしたものかと考えていた私は、真剣に説明に聞き入りました。

 会場になった教室は、あっという間に熱心な保護者たちで埋め尽くされました。第二外国語として日本語の授業を取っている子供の親も参加しているため、日本人教師からの説明はすべて英語です。

 教師はまず、「以前は週3時間だった授業が2時間に削られ、絶対的に時間が足りず、課題を終わらせることが難しい」と説明。それを補うための宿題はしっかりとやらせてほしいと親に協力を求めていました。

 日本人ママから、次々と手が挙がります。
 「日本の学校に行っている子供たちとのギャップはどんどん大きくなり、そのギャップは埋まらない」
 焦りがにじんだ意見です。振り返って、そのママを見て仰天しました。言葉を交わしたときは、ネイティブの日本語でした。が、英語も完璧なのです。話を聞いていくと、自分がインターに通っていたころと比較をしています。当時に比べて、日本語授業への物足りなさを感じているらしいのです。

 教師からは、「通常の授業のすべてを日本語で行い、かつ、週7時間ほどの国語の授業を行う日本の学校で学ぶ子供と、週2時間の日本語の授業だけのインターの子供では、習得のスピードに差があるのは仕方ないでしょう。やはり、ご家庭でどれだけ勉強するかにかかっていると思います」との説明。

 「やっぱり、そうだよな。家庭だよな」と私は思わず、うなずきます。なぜなら、英語での授業についていき、かつ、たくさんの宿題をこなしていく娘に、さらに漢字や文章読解など「国語」の勉強をさせることは、簡単ではないからです。私は、おそらく娘の到達点は英語はネイティブ並みにできるが日本語は「読み書きに難あり」だろうな、とあきらめつつあるのです。

 しかし、そう腹をくくれるのも、娘がハーフだからです。日本語が多少できなくても進路の選択肢は少なくはならないだろうと、楽観視できるからです。一方、生粋の日本人の子供を持つ親の悩みは深い。

 次に出た意見も日本人ママから。
 「年齢に適した本を推薦してほしい。以前は授業で課題図書を読んでいたのに、それがなくなり残念に思っています」
 その意見に対しても、教師は「圧倒的に時間が不足する中で、教科書に沿った授業をするのが精一杯で、たいへん申し訳なく思っています」と説明。さらに、子供たちの意欲に踏み込んだ説明もなされました。
 主要教科の勉強が難しくなり、子供たちが宿題に追われるようになっていく中で、子供たち自身が日本語の勉強を軽視し、日本語の本も読まなくなる傾向があるというのです。

 その説明についても、私は「やっぱり、そういう傾向はあるんだ」と納得。娘には子供向けの「世界文学全集」を少しずつ買い与えるなど読書に興味を持ってもらうように努力はしていました。娘も、「ママ、次はこれを買って!」というほど読んでいたのに、今では日本語の本をほとんど読まなくなりました。その代わり、寝る前は英語の本を読むようになりました。また、日本語の宿題やテスト勉強も前ほどには熱心にはやらなくなりました。

 教師の話を聞きながら、少し前に娘を厳しく叱責したことを思い出しました。翌日漢字のテストがあるのに、前日の夜10時まで勉強せず、また、テストのことを私には言わなかったのです。地理や英語、算数のテストがあるときは夫に横についてもらい、必死にやっているのに、です。

 そのとき、私は娘にこう言いました。
 「あなた、日本語をばかにしているの?」
 「他の科目は必至に勉強するのに、漢字のテストはどうして勉強しないの? 勉強しないと結果がどうなるかはこれまでの経験で分かっているでしょう?」
 私はこう娘にたたみかけました。

 娘は驚いた表情で、「バカになんてしていない。忘れていたの。ごめんなさい。ママ。横について一緒に勉強して」

 私はきっぱりと断りました。ここで許せば、また、同じことの繰り返しになると思ったからです。娘はその後、泣きながら夜遅くまで漢字の練習をしていました。

 娘の通う学校には、外国人の子供たちだけではなく、日本人の子供も在籍しています。中には日本に生まれ育ちながら親の方針により通っている子もいますが、多くは親の海外赴任で英語圏の学校で学び、帰国後インターに編入した子供たちです。その子供たちの親の心配は「日本語」と「進路」。生粋の日本人でありながら、日本語の習得が遅れがちな子供の将来を心配し、今、どのような手を打つべきか、迷いながらの日々のようです。

 アメリカなど先進国に赴任すれば、当地に進出している日本の塾の担当者らに「いかに日本の受験を取り巻く環境は厳しいか」とあおられる。後進国に赴任すれば、補習校も情報もない中で、日本から取り寄せた教材を頼りに、子供に勉強させる。日本に帰国すれば、とりあえずインターに入れたものの、子供の進路はどうすれば良いのか、溢れんばかりの情報の中で迷う。

 娘は今中学1年生ですが、日本の学校に行っていれば小学6年生です。娘の同級生には密かに、日本の私立中学の受験を目指し、塾に通っている子供も幾人かいるようです。学校での「英語での勉強」に加えて、塾で「日本語での勉強」をする子供たちの負担を考えると、少しかわいそうにもなりますが、親も子供の将来を考え熟慮の上での決断なのでしょう。

 子供の将来についてママたちと話をしていたとき、理系の大学に進みたいと希望している、娘の同級生のママが言いました。
「インター卒の子供たちが行ける日本の大学は増えているけど、文系がほとんどなの。娘が、将来理系の大学に進むなら、留学しかない。だから、ここで軌道修正して、日本の学校の中で学ばせて、日本でも外国でも、娘が納得する進路を進めるようにしてあげたい」

 ママたちの心配は尽きないのです。

 

 
 

 

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