2016年3月3日木曜日

片付けの極意

 朝、洗濯機が置いてある家事室に行くと、洗濯物を入れるピンクの大型バスケットの中に山のように服が入っていました。洗濯機は毎日2、3回回します。昨日もバスケットを空にしたばかり。「またーっ」とうんざりとした気持ちで、洗濯物を見ると、娘の物が多い。通りで一気に洗濯物が増えたはずです。

 グレーのセーターを引っ張り上げ、良く見ると、一回着ただけのセーターです。私は「ホントにもう・・・」と心の中でつぶやき、セーターをたたんで、カウンターの上に置きます。そして、ピンクのセーターを引っ張り上げ、点検します。全く、汚れていません。私はまた、それもきれいにたたんで、グレーのセーターの上に乗せて、娘の部屋に行きました。

 娘は帰宅後制服から着替え、パジャマに着替えるまで着た服を、翌朝簡単に洗濯機横のバスケットに入れます。「2日ぐらいは着なさい!」という言いつけは、何度言っても、守りません。ですので、全く汚れていない服をたたんで、娘の部屋に戻すのは私の役目。当然、娘はそのことを知りません。

 さて、3段のカラーボックスが並ぶ収納エリアのドアを開けて、まるで洗濯したばかりの服を入れるようにセーターを戻すと、ジーンズとスパッツが入れてあるカラーボックスの一番上の段のジーンズだけが、きれいにたたんでしまわれています。

 「片付けたの?」と娘に聞くと、
 「うん。1日1段って決めて片付けることにしたの」と娘は答えます。

 「うーん、明日も続けばいいけど・・・」と心の中で思いながらも、私は「それって、片付けの本でアドバイスされている方法だよ。今日はこの部屋を片付けよう!と意気込むからうんざりして出来ない。一日引き出し1つとか小さい目標のほうが長く続くらしいよ。すごいね。そのことを気付いたんだね」と大げさに娘をほめます。
 娘はわざわざ私のところまで来て、「1日1段片づけたら、1週間でだいたい片付くでしょ」と得意げに語ります。

 ほめる子育て。これは最近の子育ての主流です。その効果のほどは分かりませんが、おそらく、良い面もあるのでしょう。しかし、あまりほめられないで育った私の世代では、これがなかなか難しい。意識しないと、叱ってばかりで終わってしまうのです。で、気が付いたときに、”意識して”ほめるようにしています。このときも、「これはほめるチャンスかも」と一応トライしてみました。

 さて、翌日の夜。宿題をやったかどうかのチェックをしに娘の部屋に行ってみると、昨日の片づけは三日坊主ならぬ、一日坊主だったらしく、見慣れた光景が目に飛び込んできました。

 勉強道具が入ったリュックサックが乱雑に床に置かれ、コートも床に脱ぎっぱなし。前日の工作の紙類が床に散らばり、机の上にも物が無秩序に積み上げられていました。私はうんざりしながら、娘に言います。おそらく、子供を持つ、多くの家庭で繰り広げられている母子の会話でしょう。

 「どうして、学校から帰ってきたら、コートをかけないの? 工作が終わったら、紙屑はゴミ箱に捨てなさい!何で、お菓子の袋がここに散らかっているの? 食べ終わったら、ゴミ箱に捨てなさい!あらっ、これはバスタオルでしょ? どうして、使い終わったバスタオルはバスルームのタオルかけにかけないの?」

 私の小言は、右の耳から入り、頭の中にいっときも止まらず、左の耳から抜けていく娘は私に言います。
 「ママ、私はこういう状態が、とっても心が落ち着くの。だから、このままでいいの」

 散らかった状態が落ち着く・・・。私は、返す言葉がありませんでした。きちんと育てようと努力はしましたが、散らかった状態で心落ち着く娘を育ててしまったのは、私の責任です。

 一瞬、「片付けられない症候群」という言葉が頭をよぎりましたが、私は小言をたたみかける代わりに、「濡れたバスタオルを、布団の上に置いたままにするのはやめなさい」と力なく言い、布団の上の濡れたバスタオルを取り上げ、娘の部屋のドアを静かに閉めたのでした。

 そして、娘が小学校低学年のころにした、会話を思い出しました。
 「どうして、先生やママやダディに言われたことを、頭の中に留めておかないの!」
 「だって、頭、つまっちゃうんだもん」

 その風通しの良い頭で、あの独創的なアイディアが生まれるのでしょう。でも、それとこれとは・・・。娘を育てる母としては、悩ましいところです。

 



 
 

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