2024年7月18日木曜日

型にはまらない型

  娘が帰国して1カ月が過ぎました。娘がいる暮らしって、笑いがあって、皆が穏やかな気持ちになれて、いいなぁと思う日々です。

 12日(金)は娘と終日デートをしました。まずは、横浜みなとみらいにあるホテルでのアフタヌーンティー。あいにくの雨でしたが、23階の大きな窓の横にセットされたテーブルから眺めを楽しみながら、趣向を凝らしたスイーツをいただきました。紅茶やコーヒーはどれも、本当に美味しかった。


  アフタヌーンティーの後は、映画館へ。話題の「ディア・ファミリー」を観ました。町工場を営む男性(大泉洋)は、次女に心臓に大きな欠陥があると分かり、自分の工場での技術を駆使し、大学病院の研究室と連携して人工心臓を作ろうとします。どんな困難が降りかかろうと、娘を救いたいという一途な思いと、生来の粘り強さで試作品を作り続けますが、医学界とアカデミアの慣習に阻まれ、とん挫します。しかし、自分への愛情の深さを十分知る次女からある提案がなされ…。映画の途中から、涙なしには見られませんでした。

 映画の後は、イタリアンレストランで夕食、そして、締めは娘のリクエストでカラオケでした。みなとみらいの夜景も堪能しました。




 娘と、いろいろな話をしました。その中で、一番印象に残ったのはオーストラリアの大学での”気付き”についてです。娘はアート専攻です。その大学はアートに力を入れており、娘も入学してすぐ、自分の作業場を与えられ、毎日絵を描いています。でも、娘はこう説明しました。

「自分の好きな絵を描きたくて、海外の大学に行ったけど、がっかりしているの。先生たちは”型にはまらない”絵を描くように指導をしてくれるんだけど、”型にはまらないという型”に自分がはめられているように感じているの」

 娘は、高校時代に行った美大受験のための予備校で「各大学ごとに合格するための型」があることに気付きました。予備校では、その型にはまった絵を描くように指導され、日本の美大には行きたくないという気持ちを強く持ちました。ですが、海外に行っても同じだったというのです。

「日本だから型にはめようとするのかな、と思ったけど、海外でも同じ。特に、自由なオーストラリアでもそうなのだから、どこに行っても同じような気がする。この型に自分をはめないと成績も取れないし、卒業できない。そうしているうちに、自分自身がなくなってしまうような気がするの」

 アーティストとしての最初の壁でしょうか。娘の話を聞きながら、以前、足しげく通っていた歌舞伎の「型」についての話を思い出しました。歌舞伎の世界では各家に伝わる型があり、その家の後継者がそれを生涯かけて極めていくそうです。そして、型を習得していない役者が”型破り”な演技をしても、それは評価されない。まずは、その型を習得してからでなくてはいけないそうなのです。

 アートの世界でもおそらく同じでしょう。ピカソは、多様な角度から見える物・人を一つの画面に描くという革新的な絵を描く前は、たくさんの古典的な型にはまった絵を描いていてました。芸術の世界では、まず型をしっかり学んでから、自分らしい表現を追求していくという道筋が王道のようです。そんな話を娘にしました。

「型にはめられているように感じるかもしれないけど、それはこれから自分らしい自由な発想で絵を描き続けるための、しっかりとした土台作りと考えたらどうかな? 家だって、基礎の部分がしっかりしていないと人が住める家は建てられないでしょう。それと同じかもしれないね」

 19歳の大学生の、真っすぐな悩み。娘には悩み抜いて、それを乗り越え、アーティストとして成長してほしい。もし、違う道を歩むとしても、今の悩みに正面から向き合うことは、娘の人生のしっかりとした基礎作りになると思います。そして、何よりも、悩みを打ち明けてくれる関係を娘と結べていることに、心から感謝をしたのでした。



 

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