2019年5月24日金曜日

You make my day 

 英語のフレーズに「You make my day」という良い表現があります。直訳すると「あなたは私の一日を作ってくれた」。意訳すると、「あなたのおかげで、私の一日が素晴らしいものになったわ」です。

 たとえば、あなたが落ち込んでいるとき、友人や彼があなたのことを褒めてくれた。もしくは、あなたの子どもや夫が、何気ない、でも素敵なプレゼントをくれることもあるでしょう。一日、仕事や家事・育児で疲れ切ったあなたは、その言葉や小さな贈り物でその日一日を幸せな気持ちで終えることが出来ました。そんなときに、相手に言う言葉です。

 「You make my day」-。私はその言葉を最近2回、遠方に住むある人に言いたい気持ちになりました。2回とも、同じ人に対してです。

 その人は、北海道利尻郡利尻富士町に住んでいます。4月27日に、北海道新聞に私のインタビュー記事が掲載されたとき、真っ先に電話をくれた人です。その人は記事を読み、拙著「がんと生き、母になる 死産を受け止めて」を読みたいと思ってくれたらしく、直接電話をくれたのです。記事には私の会社の連絡先が書いてありませんでしたので、北海道新聞か書店に電話をして、連絡先を尋ねてくれたのだと推測しました。

 電話がきた土曜日の午前中、私は大学院の講義を受けている最中でした。講義が終わって電話をチェックすると、見慣れない番号からの着信履歴が5回ありました。よほど、私に連絡を取りたがってくれたのだと判断し、すぐ、折り返し電話をかけました。ちなみに、私の会社にかかる電話は、私の携帯電話に転送するようになっています。

 電話をかけると、電話口の声は、おばあちゃんでした。「道新に載っていた本を買いたいんですけど、どうやって買えますか?」というのが質問でした。「お住まいはどちらですか?」とお聞きすると、「利尻郡利尻富士町です」と言います。北海道の端に住んでいる人が、私の記事を読んでくれたんだと、感動しました。北海道新聞の力を実感しました。

 私の本は、全国津々浦々の書店に本を送る取次店を通して販売していないため、利尻郡利尻富士町の住人の方々が行く書店は注文を受け付けないかもしれないと考えました。で、「送料こちら負担で、直接本をお送りできますが、それでよろしければお送りします。お代は銀行に振り込んでいただく形になりますがよろしいですか?」と聞くと、「お願いします」と言います。私は本を丁寧に梱包し、休日でも開いている大きな郵便局に自転車で向かい、おばあちゃんに本を送りました。とても、晴れやかな気分でした。

 本を梱包するにあたり、ちょっと気にかかったのが、私の出版社は都市銀行にしか口座を開いていないことです。北洋銀行、北海道銀行や地方の信用金庫を使う方が多い道内の方は、都市銀行の口座への振り込みは面倒と考えてしまうのでは?と考えました。若い方なら、他行の銀行に振り込めることも知っていますが、お年寄りはどうかな? と考えたのです。が、それしか方法がありませんでした。

 さて、本を送ってから2週間ほどたっても、銀行に振り込みがありません。もしかしたら、届いていないのかも?と考え、電話をしてみました。おばあちゃんは開口一番「すみません!遅れまして。明日振り込みます」とのこと。「いつでも、お時間のあるときで結構です。本が着いて良かったです」と私。おばあちゃんは、「実は、私、乳がんで・・・」と言います。がんを患って、私の本を読みたいと思ってくだったのだと、胸にじんときました。そして、私は「そうですか、、、。どうぞ、お大事になさってください」と言い、電話を切りました。

 さて、それから1週間。気になって、銀行の通帳記帳をしましたが、まだ、振り込みになっていません。 「もしかしたら、私の本は役に立たなかったのかもしれない。だから、代金は払いたくないと思ったのかもしれない」と考えました。少し、落ち込みました。で、夫に伝えると、夫はこう言いました。

 「日本人はきちんとしているから、代金を振り込まないなんてことはないよ。きっと、何か事情があるんだよ。そのおばあちゃんに。たとえば、体調が悪いとか、近くに銀行がないとか」
「そうだね、でも、ちょっと落ち込む」と私。

 さて、そのことは考えないようにしようと気持ちを切り替えた数日後の5月18日、ポストに郵便が入っていました。そのおばあちゃんからでした。少し厚手の紙の封筒の中には、現金2千円と、一筆を添えたメモ紙が入っていました。演歌歌手「鳥羽一郎」の写真が薄く浮かび上がっているメモ紙でした。「遅くなってすみません。じっくりと読ませていただきました」と書かれていました。

 そのおばあちゃんの誠実さに、胸を打たれました。とともに、「私の本は役に立たなかったのだ」と思い、落ち込んでいた気持ちが一気に晴れました。そして、その日一日を気分良く過ごせました。

 私は数日後、おつり272円をお礼の手紙とともに、おばあちゃんに送りました。現金書留は520円かかりましたが、誠実なおばあちゃんには、誠実に対応しなければと思いました。

 利尻郡利尻富士町のおばあちゃん。ありがとうございました。あなたの電話、あなたの手紙に私は救われました。

 You made my day!

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