2021年11月19日金曜日

「父」を見掛ける

  小4の息子は週2回水泳教室に通っています。教室は車で20分ぐらいのところにあり、近くには百貨店やモールがあります。息子が泳いでいる間、私は買い物をしたり、書店に行ったり、カフェでお茶を飲んだり、などして時間を過ごします。

 先日、百貨店内を歩いていると、向こう側から亡父とそっくりな人が歩いてきました。細身の体に野球帽をかぶり、銀縁のメガネをかけています。片手は、脳梗塞の後遺症で右手が不自由だった父が歩いていたときと同じように握りしめられ、片足を引きずるように歩いていました。あまりにも似ていて、その男性が側を通り過ぎたとき、「お父さん!」と声を掛けそうになりました。

 その男性は、30代ぐらいの男女に見守られて歩いていました。お子さんたちか、お子さんとその配偶者の方だと思われました。私はもう一度、その男性の顔を確かめたくて、方向転換して戻り何気ない振りをして歩き、その男性の顔を見ました。前から見ても横から見ても後ろから見ても、まるで父でした。

 思わず声を掛けそうになりましたが、躊躇しました。その男性が一人で歩いていたら、ためらわずに声を掛けていたと思います。でも、心配そうな表情で気遣いながら、男性の横をゆっくりと一緒に歩く男女の存在が私を思いとどまらせました。私は「お父さんであるはずがない」と自分に言い聞かせ、進行方向に向かって歩きました。

 それでもやはりその男性のことが気にかかり、「声を掛けてみよう」と決心し、振り返って急ぎ足でフロアを探しました。が、もうどこにもその3人組はいませんでした。声を掛けなかったことが悔やまれました。

 でも、最近気持ちが塞ぐことが多い私を心配して、父は私を見守っていることを伝えに来てくれたのだーと思い直しました。それほどに、その男性は風貌から歩き方まで、父にそっくりでした。

 その話を帰宅後、娘にしました。すると娘ははっとした表情をして、私にこう言いました。

「今のママの話を聞いて、私が小さいころから時折起こっていた不思議な出来事の意味が分かったような気がする」

「不思議なことって何?」

「私はね、小さいころからたぶん1年に1、2度だと思うけど、男の子にぶつかられるの。その子は私と同い年ぐらいで、いつも後ろから私にぶつかってくるの。自転車に乗っていたり、走っていたりするんだけど、ちょっと体が触れて、『すみません!』って通り過ぎるの」

「顔は見たことがあるの?」

「ううん、一度もない。でも、似たようなことが年に1、2度起こるから、不思議だなって思っていたの」

「そうかぁ…。アンディかもね」

「うん、絶対アンディだと思う」

「アンディが様子を見に来てくれたんだね」

「うん。そうだと思う」

 娘の目に涙が浮かんでいました。アンディは娘の双子の弟の名前です。

 私と娘の不思議な体験の解釈は、「あの世にいる人は時折この世に降りてきて、気にかけている人の側に寄り添ってくれるのだ」ということでした。思い込みかもしれませんが、その思い込みは、当人にとっては生きる上での励みになります。

 私はあの男性は父だった、と思っています。あれから、父が応援してくれているから、頑張ろうと思えるようになりました。 

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