2018年10月27日土曜日

息子の落とし物

 今朝、夫が行きつけの床屋さんに、小1の息子を連れて行きました。夫の楽しみの一つで、中2の娘もつい最近まで一緒に行っていました。

 床屋さんに子供を連れて行くと言っても、髪を切るのは夫で、子供たちは夫を待っているだけ。ご夫婦で経営する小さな店で、夫が髪を切ってもらうときには子供たちは近くのソファに座って、持って行った本を読んだり、絵を描いたりしています。お店の人や他のお客さんにご迷惑でないのか気になりますが、大人しくしているようなのです。小学生にもなれば子供たちもつまらないのではと想像しますが、よちよち歩きのころから夫と一緒に行っていた子供たちは喜々として着いて行きます。

「早く、早く。田中さん(床屋さんの名前)はすぐ混んじゃうからさ。図鑑はダディのバッグに入れておいたから」
2階で何やら準備をしていた息子を急かす夫の声が玄関から聞こえます。図鑑は息子が昨日、学校から借りてきたもので、床屋さんで読ませようと夫は自分のバッグに入れたようです。
「分かった。今行く!」
息子が慌てて2階から駆け降りてきました。
そして、急いでスニーカーを履いて出て行きました。

「いってらっしゃい!」
玄関前の道路で2人の背中を見えなくなるまで見送り、家へ。ぐちゃぐちゃに散らかった家の中をため息をつきながら一つ一つ片付けるのは私の仕事です。

 1階のキッチン・ダイニングをざっと片付け、息子の部屋がある2階に行こうと階段を上ると、その途中に息子が夫の床屋さんに付き合うために準備していたものが転がっていました。「キャプテン・アメリカ」というアメリカのコミック作品のヒーローが持っている盾の形をしたリュックサックと、息子が赤ちゃんのころから一緒に寝ているクマのぬいぐるみ「ベア」です。


 ああ、これを持って行こうとしたんだな。ベアと一緒に図鑑を読もうとしていたんだな、と想像しました。胸がキュンとしました。日常の何気ない風景。娘が成長し、このような子供らしい落とし物を家の中にしてくれなくなった今、尚更、これらがいとおしい。そして、いつか、こんな風景を家の中で見なくなる日が来る、と想像すると胸がチクンと痛むのです。

 仕事や趣味など、家庭以外で人生を豊かにしてくれるものを求める私ですが、私が本当にしたいのはそれなんだろうかと考えます。実はそうではなくて、子供との時間を精いっぱい楽しみながら、子供たちが好きそうな料理やお菓子の新しいレシピに挑戦したり、子供たちのために縫い物をしたり、ささやかな日常の風景を写真に撮ったり、文章につづったり、子供たちの成長を記録するアルバムを作ったりすることなのではと考えるのです。

 でも、一方で、子供たちが巣立ってしまったあと、自分自身が空っぽになってしまうのも恐れている。そして、世の中に必要とされなくなること、家庭以外に自分の居場所がなくなってしまうことも恐れている。私は39歳まで仕事に没頭し、40歳直前と46歳で出産しましたので、子供が小さくて可愛らしい50代前半の今、活動を始めなければあっという間に”老後”と言われる年齢になってしまうという焦りもあります。

 私が本当にしたいことは一体何なのだろうか? 息子があちこちに散らかしたものを拾い上げ、抱き締めながら、ぐるぐると考えを巡らせたのでした。

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