2018年1月22日月曜日

おもち vs. ピーナッツ

 「ダディに、おもちをもう食べちゃ駄目だって言われたの」
 夕方、学校帰りの娘を最寄り駅まで迎えに行く車の中、息子がぽつりとつぶやきました。息子は続けます。「英語で、You've got to stop eating Mochi って」

 つつがなく一日を終えつつある、幸せな気分が吹き飛びました。
「いったい、おもちのどこが悪いっていうのよ」。私は、心の中でつぶやきました。

 夫が息子におもちを止めるように言った理由は分かります。「太る」という理由です。私は、心の中とは裏腹に、一応は穏やかに息子に言いました。「そうだね、おもちは食べ過ぎると太るからね。きっと、ダディは子供たちが太ることを気にしているのよ」と。

 日本の伝統的食べ物であり、かつ、生粋の日本人の私と半分日本人の子供たちが愛するおもちを「肥満の元」と目の敵にする夫。夫は、元旦から毎朝おもちを食べ続けている子供たちを見ることに耐えられず、つい息子に文句を言ったらしいのです。もちろん、私には遠回しな表現で「子供たちのもちの量を、少なくしたほうが良いと思う」と言っていましたが、息子には「have got to stop」という強い表現を使っていたのです。

 折しも前夜、夫は「Movie Night」と称して、夕食後、ソファに座って子供たちと一緒に映画を見ながらコーンチップス1袋とピーナッツ1袋、りんご2個を食べていました。私は、キッチンに置いてあった空のピーナッツの袋に書かれたカロリーを見て、卒倒しそうになったばかり。

 そこには「100グラム当たり624㌔カロリー」と書かれていました。その袋には185グラムのピーナッツが入っていますので、つまり3人は1,154㌔カロリーのピーナッツを夕食の後に食べたのです。304㌔カロリーのコーンチップスと、健康的ではありますが、リンゴ2個も一緒に。

 北京出張の前夜に、子供たちと一緒に映画を見ようと会社帰りにスーパーに立ち寄りスナックを買ってきた子煩悩な夫に、 私は「目をつぶってあげた」つもりです。にも関わらず、翌日の朝食のおもちに文句を言うとは。

 ここは謙虚な気持ちを忘れず、そのおもちには「こしあん」が乗っかり、少々カロリーが高めだったことは認めましょう。が、就寝前のピーナッツとコーンチップスよりましでしょう、と私は心の中で憮然とします。

 日本人であることを、何よりも誇りに思っている私。おもちをけなされて黙っているわけにはいきません。夫に”宣戦布告”をしようと思いました。私は携帯電話を取り出し、メールを開いてアルファベットを打ち始めました。

 「ハーイ! 無事北京に着いた? ところで、おもちを食べるなって子供たちに注意をしたらしいんだけど、昨夜あなたが子供たちと食べたピーナッツ、1袋1、154㌔カロリーだったのよ。夕食をお腹一杯食べた後、ソファに座って映画を見ながら、チップスやピーナッツを食べるのが、アメリカの”文化”であることは認めるし、それを尊重するわ。でも、これから一日の活動を始める前の朝食として食べるおもちと、夕食後、寝る前に食べるピーナッツとどちらが太るか、しっかりと考えてみて」

 勢いに任せて書いた文章を読み返し、私は熟考しました。そして自分に言い聞かせました。「私は分別のある大人の女性。おもちをけなされたぐらいで平常心を失ってはいけない」と。国際結婚をした夫婦円満の秘訣は、相手の国を尊重すること。愛国心を前面に出さないこと。それを忘れてはいけない、と。

 そうです。私は、「カロリーゼロ」のダイエットコークを飲みながら、高カロリーのチップスやピーナッツをほおばるという、矛盾した行動を取るアメリカ人を尊重しなければなりません。私は、「このほとばしる愛国心を抑えなければ」と自分に言い聞かせたのです。

 が、そのメール。結局、送信しました。文章に説得力を持たせるため、カロリーの表示されたピーナッツの空の袋の写真を添付して。

 夫からは返信はありませんでした。が、翌日、何事もなかったように事務的な連絡をすると、夫からはすぐ、何事もなかったように連絡が来ました。

 相手の国の文化・慣習を否定する発言は喧嘩の元と、一応はわきまえている夫。「地雷を踏んでしまった」と思っていたのかもしれません。いや、「ここは、黙っているほうが得策だ」と考えたのでしょうか? 返信なしの真意は、謎です。

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