2018年1月18日木曜日

ヘアドネーション

 娘には、アメリカ人のいとこが6人います。そのうち5人が女子。活発で明るい、このマイヤー家の女子たちの間で、あるボランティア活動が受け継がれています。ヘアドネーションです。

 ヘアドネーションは、病気や治療で髪を失った人たちに医療用ウィグ(かつら)を提供する目的で、自分の髪を寄付すること。現在テキサス州の大学院に通う姪が中学生のとき、「がん治療で髪を亡くした子供のために役に立ちたい」と美しいブロンドの髪をばっさりと切って寄付したのが最初でした。続いてイリノイ州シカゴに住む高校生と小学生の姪も数年前、それぞれ茶色とブロンドの髪を寄付しました。

 昨年末、たまたまテレビのスイッチを入れたところ、日本でのヘアドネーションの活動を紹介する番組が目に飛び込んできました。娘を呼び、一緒に見ました。番組を見終わった後、娘が「私もいとこたちみたいに、髪を寄付したい」と言い出したのです。

 さっそく、インターネットで調べてみました。「ヘアドネーション」で検索すると、日本ではNPO法人を中心にいくつか活動を行っている団体がありました。NPO法人のサイトによると、寄付に必要な髪の長さは31センチ以上。長さ31センチの髪を寄付するためには、かなり伸ばさなければなりません。娘は小さなころからストレートのロングヘアですが、長さがまだ十分ではなく、今切れば寄付した後の髪型はショートカットになります。かといって、これ以上伸ばすのも日常の手入れが大変です。

 もう少し短い長さはないかと調べると、ありました。長さ15センチでも良い寄付が。帽子の下から髪の毛が出ているウィグ用です。サイトに掲載されている写真は、毛糸の帽子を被った女の子でした。帽子から出ている髪は自然で、とても可愛らしいウィグでした。その長さで寄付をすることにしました。

 娘も私もすっかり乗り気になっていたとき。夫が口を挟みました。「髪は切ると印象が変わるから慎重に考えたほうがいいぞ」「切った後、後悔しても元の長さになるのに1年半や2年はかかるぞ」、などなど。要するに、娘には長い髪をしていてほしいと思っているのです。

 私は夫を説得します。
「まずは娘の気持ちを大切にしましょうよ。どうせ、髪は伸びるんだから。それに、切ると頭は軽いし、髪を洗うのも簡単なの。それに早く乾くのよ」

 娘も夫を説得します。
「髪は切ったら、捨てられるんだよ。もったいないよ。必要な人がいるのなら、寄付したい」
その言葉を聞き、夫はしぶしぶ了承しました。夫は合理性を尊ぶアメリカ人ですが、娘の髪となると、割り切れないものがあるでしょう。
 
 娘は、幼稚園生のときに初めて行ったキティちゃんの美容室で、今も髪を切っています。年明け早々、そこに電話をしてヘアドネーション用に髪を切ってもらえるか、聞いてみました。すると、間髪を入れず「はい、承りますよ」とのこと。これまで、同様に髪を寄付する子供が幾人かいたようで、慣れているようです。

 美容室によっては、切った髪を団体への送ってくれるところもあるようですが、その美容室の担当者は「送るのは、ご本人にお願いしています」とのこと。もちろん、それで十分。指定された方法で、私が娘の髪を切るのは不安でしたので。

 絡まっている娘の髪を丁寧にとかして、さっそく美容室に向かいました。椅子の背もたれにかかるほど長くなっていた娘の髪を、美容師さんが4つに分けて、定規で毛先から15センチを測りながら、ゴムで縛りました。そのゴムの1センチ上をじょきじょきと切り、最後に1つにまとめてゴムで縛り、紙袋に入れて渡してくれました。

 フルウィグを1つ作るのには、2、30人分の髪の毛が必要だそうです。初めは、1人の人間の髪を全部切るのに、なぜ2、30人分も?と不思議に思いました。が、切ってゴムでまとめた娘の髪の毛の量は、想像していたよりずっと少なかった。2、30人分の髪が必要だということに合点がいきました。

 切った後は、毛先をそろえてもらいました。肩に触れるぐらいの長さになりました。活発な女の子という感じに見えて、よく似合いました。本人も満足そうでした。

 「困っている人のために、自分が出来ることをする」という活動で、2018年をスタートさせた娘。私も2度、髪が全部抜けて、辛い思いをした経験があります。それを知っている娘がヘアドネーションをしてくれたことをとても嬉しく思うとともに、娘の髪が病気や治療で苦しむ子供の助けになると思うと、私も温かな気持ちで新しい年をスタート出来たのでした。

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