「ママ、最近ぼく、旅をしたいと思っているんだけど・・・」
5歳の息子がそうつぶやきました。夜、ベッドの中で絵本を読み聞かせていたときのことです。
私は思わず、噴き出しました。息子の顔が真剣だったからです。私は慌てて笑いを抑え込み、聞きました。
「どこを旅したいの?」
「世界中を旅したいの」
「たとえば、どこの国?」
「日本中」
覚えたての言葉を使ってみたい年頃。話はつながるような、つながらないような・・・。
「そうなんだ。たとえば、どこ?」
「たとえば、アフリカとか、アメリカとかオーストラリアとか・・・」
「そうなんだ。アフリカとアメリカとオーストラリアかぁ。楽しそうだよね。ママも行きたいなぁ」
「うん」
次の日、幼稚園に迎えに行くと、息子は嬉しそうに園から借りてきた絵本を見せてくれました。
「ママ、今日は『エルマーのぼうけん』を借りてきたんだよ」
その本は、たくさんの子供たちに読み継がれてきたのでしょう。色あせ、表紙のところどころが補修されていました。
『エルマーのぼうけん』は、男の子の冒険物語です。娘に買ってあげましたが、息子にはまだ、読み聞かせていなかった本です。字が多く、まだ、早いかな?と思っていたためです。きっと、幼稚園で先生から読み聞かせてもらっていたのでしょう。
「旅に出たいから、この本を借りてきたの?」
「うん。エルマーになって、絵本の中で旅が出来るでしょう?」
大人びた答えに、少し感心しました。
夜、いつものようにぬいぐるみの「ベア」を抱いてベッドに入った息子に、この本を読み聞かせました。息子は絵本を読み聞かせるときの定位置である私の左腕の中にすっぽりと入りました。息子はところどころにある挿絵をじっと見ながら、真剣に聞いています。
エルマーの冒険話に、息子と一緒にドキドキしながらも、私は少し寂しい気分になりました。
「いつか、子供は”人生の旅”に出て行ってしまうんだよね。そして、めったに戻らなくなるんだよね。特に、男の子は・・・」と遠くない将来のことを想像してしまったからです。
出来るだけ長い間、息子と一緒に絵本の中の旅を続けられますようにー。そう改めて願った夜でした。
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