2017年2月3日金曜日

インターのダンスパーティ ②

「第2回のミーティングは水曜日12時から、●●●の家で行います。お昼の時間なので、皆で食べられるものを一皿持ってきてください」 

  そんな一斉メールが届きました。娘の通うインターのPTA主催「ダンスパーティ」の打ち合わせです。第1回は学校のカフェテリアで開かれましたが、第2回は横浜にあるフランス人ママの家で開かれるというのです。

 その日は朝、東京都中央区築地にある国立がん研究センター中央病院で血液検査と診察の予定が入っています。かつ、息子の通う幼稚園は午前11時半で終わります。午後は地元のサッカー教室に連れていかなければなりません。参加できない旨を書いたメールを返信しました。

 「すみません! 水曜日は息子の幼稚園が午前11時半に終わるため、残念だけど参加できません」

 するとフランス人ママから早速返信が。
 「大丈夫よ!一緒に連れてきて。ミーティングは女性ばかりなので、男性がいると楽しいわ」

 しまった!子連れだから遠慮したと思われたの? 午後にも予定があると書けばよかった、と後悔しても後の祭り。で、考えました。もう一度、更なる理由をつけて断るか。それとも少しでも顔を出すか? 相手は外国人。メールは英語で、文面がおしゃれです。日本人だったら文章の行間を読んで、相手の真意も分かります。が、そのメールを何回読んでも社交辞令なのか、親切心で言ってくれているのか、分かりません。そこで、夫に相談しました。

開口一番、夫もこう言いました。
「それ、社交辞令?」
「分からないわ。読んでみて」
夫にメールを見せます。
「ああ、親切なんだよ。もう一度断るのは止めたほうが良いかもね。他の学年のママたちと知り合える良い機会だから行ったら? フランス人の家も見てみたいでしょ?」

 そうだよね、と思い直し、スケジュールを組み立て直しました。
 朝、ランチ用の料理を作って、午前8時に息子を連れて車で国立がん研究センターに向かう。血液検査をし、結果を待ち、10時半予約の診察を受ける。その後、会計を済まして、薬を最寄りの薬局で買い、そのまま車で高速を飛ばして横浜のフランス人ママのお宅へ。おそらく、12時半までには着くでしょう。1時間ほどランチ会兼ミーティングに参加し、午後1時半に家を出れば、午後2時20分の息子のサッカー教室に間に合う。息子はサッカーを何よりも楽しみにしているので、キャンセルするのも可哀そうです。幼稚園はこの際、思い切って休むことにしました。

 次に考えたのは持っていく食べ物です。外国人にも食べてもらえて、かつ、冷めても美味しいもの。まず思い付いたのは、作り慣れていて、家族にも幼稚園のママ友達にも好評な「キッシュ」です。夫に聞いてみました。夫は真顔で、こう言いました。
 
 「君のキッシュは美味しいよ。でもさ、キッシュってフランスの食べ物でしょ。フランス人の家にキッシュを持っていくのは、やめたほうが良いと思うよ」

 悩みに悩んで、参加する日本人ママにメールしました。
「外国人宅での持ち寄りランチって、何を持っていけば良いのでしょうか? 日本人ママたちと持ち寄りランチをするときは、『私はお肉料理を作るわ』と提案すると、『じゃあ私はサラダ』、『私はご飯もの』、『私はデザートにするわ』とざっくりと決めるのですが・・・』

 インター生活が長いその日本人ママからは、こんな返信が届きました。
「適当です。何を持っていっても喜ばれますよ!ちなみに私はサケとイクラのちらし寿司にします」

 で、私は心を決めました。鶏のから揚げと、得意の米ナスの料理にしようと。

 当日は早朝から、スケジュール通りに動きました。病院を出た後は、汐留インターチェンジから首都高速に入り、横浜に向けて車を走らせました。横浜でアメリカ人ママを拾って、フランス人ママのお宅へ。

 「どうぞ、入って」
 にこやかに迎えられ、金色の帯(帯を敷物にする感覚、やっぱり外人です)の上に大振りな花が活けてある広い玄関から、日当たりの良いリビングダイニングに入りました。10人は座れる大きなダイニングテーブルには白いテーブルクロスがかけられていました。キッチンに行くと、すでに来ていたアメリカ人ママ、スウェーデン人ママ、チェコ人ママが料理を作ったり、皿に盛り付けたりしています。いつも集っているのだな、という和やかな雰囲気です。フランス人ママがスパークリングワインを開けます。車で来たことをちょっぴり残念に思いました。

 私は恐る恐る、袋から料理を取り出しました。それを見たチェコ人ママは言います。「日本人の女性は、本当にきれいに盛り付けるのよね。それも、いつも手作り。私たちは、ほら、出来合いのものよ」。すかさず、アメリカ人ママが切り返します。「あら、私は手作りよ」。そのママはシーフードパスタを作ってきたようです。ユーモアたっぷりのチェコ人ママのコメントや、アメリカ人ママの遠慮ない物言いを聞き、私の不安はようやく消えたのでした。


 この日は3人がパスタを持参。もう1人の日本人ママのちらし寿司は、いくらとサケ、錦糸卵が彩り良く飾り付けられて、本当に美味しかった。そのほかパン、サラダ、デザートやフルーツも。相談しなくてもバランスよく集まるんだなあ、と感心しました。

 楽しいランチも終わり、ダンスパーティの打ち合わせです。学校との調整事項の報告、パーティで出す食べ物・飲み物、DJやシンガーへの出演依頼についての確認、ドレスコードなど様々なことを話し合いました。私は前回のミーティングで提案した「ベネチアンマスク」のサンプルを見せ、アマゾンや楽天での在庫状況について報告しました。

 マスクはアマゾンの購入者の評価が思ったより良くなく、私は提案したことを少し後悔していました。前日、それを付けて鏡を見ても、どうも、取って付けた様で変だったのです。私は少し言い訳気味に言いました。

「アマゾンのコメントがあまり良くないの」
「見せて!」とロングヘアの美人・スウェーデン人ママ。付けてみると、なんと、似合うこと。ほれぼれするような美しさです。
「あら、いいじゃない」と皆の反応も良い。ここで、私は初めて気が付いたのです。

 このマスクは、顔の凹凸がしっかりした人たちが付けるものなのだ、と。道理で、私には似合わないはずです。さておき、提案が通って良かった。私は、ここでも安堵したのでした。

 最初は気が重かった、フランス人ママ宅でのミーティングへの参加。お宅を出るころには、気持ちは晴れやかになっていました。息子も臆することなく、ママたちと一緒にテーブルに付き、時に質問に答えながら、お行儀良くランチを食べることが出来ました。

 案ずるより産むが易し、を実感した日でした。

 

 

 
 

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