「なんかなぁ」と鏡を見ながら、私はつぶやきます。久しぶりにブラウスをスーツのスカートの中に入れて着てみました(最近は、シャツやセーターを中に入れられない)が、お腹まわりについた浮き輪のような贅肉が目立ちます。なんだか、顔もくすんでいるし、髪だって決まりません。どう頑張っても”学生”には見えないのです。
私は高齢出産でしたので、娘の学校でも、息子の学校でも最高齢。その最高齢記録をまた更新するんだなと思うと、「ああ、また、若い人たちの中に入って、脳も体も活性化させて勉強しなければならないんだなあ」と想像すると、「本当にこれで良かったのかな?」と思ってしまったのです。
でも、と気持ちを切り替え、ハンガーにかけてある息子が着る小さなスーツとシャツを眺めました。気持ちが少し明るくなりました。夫は有休を取って、春休み中の息子を連れて入学式に来てくれると言います。そんな風に全面的に私の人生の再挑戦をサポートしてくれる夫に感謝をしながら、スーツ姿の息子を想像し、気を取り直して、入学式のリハーサルに出るためにひと足先に家を出ました。
1時間ほどで学校に着きました。大学敷地内の桜はちょうど満開。スーツを着た初々しい学生たちが桜と入学式の立て看板を背に、お母さんやお父さんと一緒に写真を写しています。大学院生約30人のこぢんまりとした入学式を想像していたので、驚きました。学部生も一緒の入学式だったのです。
学部生の数と若さに圧倒されながら、会場前の桜の木の前でうろうろしていると、私と同世代と思われる女性が私と同じように、敷地内をうろうろとしている様子が目に入ってきました。私の心は弾みました。「同世代の学生がいたんだ」と。
話しかけようか迷っていたら、その女性からこちらに近付いてきました。私の気持ちに共鳴するように、にこやかな表情で話し掛けてくれました。
「公衆衛生大学院ですか?」
「そうです」
その女性の表情はぱっと輝き、こう言いました。
「私もそうなんです」
「えっ、そうなんですか! 嬉しいです」
その女性は、声を弾ませて続けます。
「もうすぐ、娘が来ます。研修医として2年働いた後、こちらに入学したんです」
「・・・・」
一瞬、言葉に詰まった私。
「あぁ、お嬢さんが大学院に行かれるのですね」
「・・・ええ」
あれっ? 会話のつじつまが合わないという表情をしたその女性に私は苦笑しながらこう言いました。
「私なんです。入学するのは」
「そうなんですか!」とその女性は驚いた表情をした後、慌てて話を続けました。切り替えは見事でした。
「お仕事をしながらなんですね」
「そうです」
「まあ、素晴らしいですね」
なんと、私は子どもの、それも大学1年生ではなく、20代以上の大学院生の親に間違えられたのです。確かに、子どもが25歳だったとしても、親は普通50代。54歳の私は、院生の親に見えて当然。さらに、日本語の特徴である「主語を省略する」文章で話し掛けられたため、勘違いが起こったのですね。
「桜がきれいですので、写真をうつしましょうか?」とその女性。
「お願いします」
私はスマートフォンをその女性に手渡しました。
そして、学部生たちのように、桜を背に一人でにっこりと微笑みながら写真に収まったのでした。
さて、会場に入ると、受付が始まっています。式次第と名簿をもらって、会場に入りました。次々と学生が入ってきます。座席に座ると、右隣は髪に白髪がちらほら見える男性、左横は3人欠席(仕事なんですね)、そのさらに左横には私と同世代に見える女性も、、、。なんとなく、ほっとした気持ちになりました。
リハーサルが終わったころ、夫からメールが入りました。会場に着いたとこのこと。学生の家族は会場ではなく、別室でモニター画面で入学式を見ることになっています。
「部屋がいくつもあって、たくさん人がいるよ」と夫。
「まだ、式まで時間があるから、ホールに下りてきて」と私。
ホールに出て待っていると、息子が階段を走って下りてきました。
「ママ、おめでとう!」とハグ。息子を抱きしめるだけで、気分は最高!になります。
続いて、夫も降りてきました。
「Congratulations!(おめでとう) I am proud of you(君を誇りに思うよ)!」
と素敵な花束をくれました。
夫がくれた花束 |
帰宅後は、学校から帰ってきた娘と息子が「ママの入学お祝いに」とケーキとクッキーを作ってくれました。子どもたちの手作りスイーツはとっても美味しく、私はほっこりとした気持ちに包まれたのでした。
娘が作ってくれたケーキ(中央)と息子が作ってくれたクッキー(中央奥) |
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