2018年12月27日木曜日

お金の価値、どう教える?

 香港の学校に転校した娘の親友レイちゃんから、娘に「年末帰国するから、一緒に遊ぼう!」のメールが来ました。娘は大喜び。さっそく、レイちゃんと遊ぶプランを立て始めました。

 レイちゃんが行きたいのは「キッザニア東京」。子どもたちが警察官になったり、ピザ屋さんになったりと職業体験をできる場所で、園児・小学生たちに人気のスポットです。娘は小学生のときに一度だけお友達と行ったことがありますが、レイちゃんは行ったことがなく、「一度行ってみたかった」とのこと。

 ホームページを見ると、価格設定が平日・土日・学校の休みの日など複雑なので私が娘の代わりにチェックすることに。レイちゃんが来る29日は冬休みですのでチケット代金は高くて税込み4698円です。私は娘に提案しました。

「グランマやばあち(札幌在住の私の母)からもらったお小遣いを貯めているでしょ。あれから出したら?」
娘はグランマや私の母からもらったお小遣いやお年玉を、一度も使ったことがありません。ですので、それを使うのには良い機会でしょう。

ところが、娘はきっぱりとこう言います。
「それは、嫌。あのお金を使うぐらいだったら、キッザニアには行きたくない」
「でも、せっかくお友達が遊びに来てくれて、行きたいと言う場所があるんだから、行ったら?」
「嫌なの。あのお金はどうしても使いたくないの」
「どうして?」
「だって、グランマやばあちからもらったお金にはそれぞれ思い出が詰まっているの。ママがばあちの家に一人で行ったとき、ばあちが小さな袋に入れてお小遣いをくれるでしょ。『お留守番ありがとう』って書いてあって。グランマからのハロウイーンのカードやイースターのカードには、5ドルとか10ドルとか入っているでしょ。そんな風に入っているお金を使うと、その思い出がなくなってしまうような気がするの。だから、絶対に嫌」
目には涙が浮かんできました。

 うーん、なるほど。母は私が母の様子を見に札幌に行くたびに、ポチ袋に入ったお小遣いを娘と息子、そして私にもくれます。私も何年間も使わずにとっておいたのですが、この冬、そのお金で欲しかったコートを買ったばかり。もちろん、「おこづかい」「ありがとう」などと母の字で書いてあるポチ袋はまとめてとってあります。娘のコメントを聞いて、胸がチクリと痛みます。

 私と夫は、娘には決まった額のお小遣いはあげていません。中高校生にもなれば、近所の家の落ち葉拾いや雪かき、ベビーシッターなどの小さな”仕事”をしてお金を貯める文化のあるアメリカで育った夫は、「労働なしにお金をもらえると子どもに教えるべきではない」との考え。私もその考えに賛同し、今のところは、お友達と外出するときなどその都度お金をあげることにしています。中2にもなると、お友達と学校帰りにピザを食べに行くことなどありますので、緊急時用に定期入れに千円札1枚も入れています。

 が、今回のキッザニアは違うなと思いました。おばあちゃんたちはこういうときに使うようにお小遣いをくれたのだから、それを使わせることで、お金は大事に貯めて自分がずっとほしかったものを買ったり、したかったことに使う楽しさを知ることが出来るだろうと。

 娘はこの世の終わりという表情で大粒の涙をこぼし始めました。
「貯めたお金を使うぐらいだったら、キッザニアには行きたくない」
「でも、レイちゃんは親友でしょ。久しぶりに会う親友が行きたいところなら、連れていってあげたらどう?」
「うん。でも貯金箱のお金は使いたくない。でも、キッザニアには行かなきゃならない。どうしたら良いの?」

 娘とは半年ほど前に、夕食後に食器を洗うと1回につき100円をあげる”契約”をしていました。が、1カ月試して3千円貯めたら、「そういう風にしてもらったお金は、学校帰りにお菓子を買ったりして無駄に使ってしまう。夕食(特に皿の数が多い和食)のお皿を洗うという労働に見合わない」と思ったらしく、「お金はいらない」という判断になってしまったのです。労働の対価としてお金をもらう。それを自分が使いたいものに使うーということを教えたかったのですが、娘には効果がなかったようです。

「あのときから続けていれば、とっくに今回のお金は貯まっていたのにねえ」と私。
「私もそう思う」としょんぼりとする娘。

 娘と私のやり取りを聞いていた息子が突然、2階に上がっていきました。そして、また階段を下りてきて娘に十円玉を差し出しました。自分の部屋にある貯金箱の中から10円を取り出してきたのでしょう。
「おねえねえ、かわいそうだから、これあげる」
娘はそれを見て、大粒の涙を流しました。

息子の部屋に置いてある貯金箱
息子は近所の駄菓子屋さんで、11円でキャンディやガムが1個買えて、100円では9個買えるということを実体験から学んでいますので、10円というお金の価値は分かっています。誠意を示しながらも現実的な行動を取る息子に、私は心の中で「なるほどなぁ」とうなりました。

 その息子は、もらったお小遣いは全部使ってしまうタイプ。それも、駄菓子屋さんでガムやキャンディを買うのがほとんどで、親の私から見るとあまり有効な使い方をしない。まぁ、息子にとってはキャンディこそがほしいものなのでしょう。

 お金の使い方がまったく違う子どもたちを見ていると、実家の向かいのお宅の息子さんたちのことを思い出します。

 実家のお向かいのお宅は、おばあさん、その娘夫婦、そして夫婦の息子2人という5人家族です。息子たちが働き始めたころから、おばあさんが「次男坊はしっかり者だ。稼いだお金は全部貯金している。でも、長男坊は駄目。全部使ってしまう」と母に話していたようです。やはり、おばあさんが言っていた通り、次男はさっさと独立し、結婚して、安定した生活をしています。長男は定職に就かず、実家から出ていかないようなのです。

 このような話を聞くとやはり、もらったお金を使わずに貯めておく娘は正しいような気がして、息子の将来について案じるようになります。でも、やはり、社会では「ケチ」は嫌われますし、、、。子どもにお金の価値を教えることは、本当に難しい。

 さて、娘の涙は止まりません。そして、優しい小1の弟に付け込んで、「ねぇ、明日の朝、温かい紅茶を入れてあげて夕食のサラダを食べてあげるから、100円くれる? 」と提案までしてしまいました。
「いいよ」と息子。全く、頓着がありません。
「弟からお金をむしり取るなんて、そんなことするぐらいだったら、自分のお金を使いなさい!」ときょうだいの話に口を挟む私。
「ママ、むしり取るなんて、そんな強い言葉使わないでよ」と娘。

 結局、キッザニアの入場料は、毎晩お皿洗いをしたり、私が息子の習い事の送迎をできないときに娘が代わりに連れていく”ベビーシッター代”を貯めて賄うことにしました。

 息子が聞きます。
「ねぇ、ママ。僕のベビーシッター代っていくらなの?」
「500円」
「それ、高過ぎじゃない? ただ、僕をプールに連れていくだけだよ」
「でも、弟を安全に、かつ、ケンカもしないで目的地に連れていくって、ちゃんとした仕事だよ」
「僕、電車の乗り方知っているし、おねぇねぇとケンカしないなんて、ありえない」
「でもさ、おねぇねぇ、お金貯めなきゃならないから、協力してあげて」

「なんか、それずるくない?」
腑に落ちない表情でそう語る息子の横で、娘の目からはすっかり涙が消えて、表情は晴れやかです。

 私が提案したことはその場しのぎで、一貫性がないような気もします。でも、キッザニアの入場料を丸ごとあげるのもまた、違うような気がします。かと言って、子どもの思いの詰まった貯金箱のお金を使わせるのも酷です。逆に、「お金のかからない遊びをしなさい」と提案するのも中2の子どもたちには現実的ではないでしょう。何が正解なのか、教えてほしいです。

 

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