ズボンを置いてある、いつものコーナーに行きました。でも、ひとサイズ大きい130センチがない。そもそも、ここは120センチまでの品ぞろえだということに、そのとき気付きました。
「今はいている120センチより大きい130センチがないみたいだよ。もう、赤ちゃんじゃないんだね」
「ママ、じゃあ、僕、お店の人に聞いてくるよ」と、もう赤ちゃんでなくなって久しい息子が店員さんのほうに走っていきました。
もう赤ちゃんじゃないー。私は自分の言った言葉に、胸がキュンと切なくなりました。そうなんだな、赤ちゃん用品店にはもう来られないんだな、と。こみ上げてくる寂しさと一緒に、ここに通っていたころの心躍る日々が蘇ってきました。
私は46歳で息子を出産しました。そのまさしく”中年”の女性が、やっと生まれてきてくれた赤ちゃんをベビーカーに乗せ、ベビー用品の店で買い物をするのは、少し照れくさいような、でも心満たされる幸せな時間でした。
小さなベビー服や下着、哺乳瓶・・・。どれもこれも可愛らしく、いとおしく、それらの買い物がどれほど楽しかったことか。自分の娘と言っても良いほど若いお母さんたちを見かけると、「きっと、私は孫を連れて買い物に来たおばあちゃんだと思われているだろうなぁ」と心の中で苦笑しながら、さっと自分の髪をなでつけたりしました。
お腹がすいてきて泣く息子に授乳するために、店内に設置されている授乳室に行って、息子におっばいをふくませて、あやすあの幸せな瞬間ー。その店での思い出はどれも、キラキラと輝いていました。
そんなことを考えていると、息子が帰ってきました。息子は運動が大好きなので、伸び縮みしないジーンズは苦手で、ここで取り扱っているストレッチ素材のズボンがお気に入りでした。だから、残念そうに言います。
「130センチはないんだって」
「そうなんだね。じゃあ、違う店に行くしかないね」
そう答えながら、別のブランドの品物が置いてあるコーナーに行ってみました。すると、なんと、たくさんの商品の中に1枚だけ、130センチのズボンがあったのです。触ってみると、息子が好きな伸縮性のある素材でした。
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「アカチャンホンポ」で買う最後の品物となったサイズ130センチのズボン |
その店の見納めに、店を出て通路からざっと店内を眺め、スマホで写真を写しました。「これまで、ありがとう」。心の中でお礼を言い、息子の手を取り、駐車場に向かったのでした。