2018年3月21日水曜日

最後のハンドベル演奏

 教会内に響き渡った澄んだ音色が消え、目の前のママさん指揮者の両手が止まったとき、私は万感の思いで両手に持った金色の楽器を下ろしました。3年間活動してきた幼稚園のハンドベルサークルでの最後の演奏が、終わりました。3月2日のことです。

 演奏したのは、「ラ・ミゼラブルメドレー」。美しい旋律を、19人のメンバーで流れるように音をつなぎながら、弾きました。演奏を始めて間もなく、目頭が熱くなりました。両手でハンドベルを持っているため、目からこぼれ落ちるものをぬぐうことも出来ませんでした。ハンドベルを細かく振る「シェイク」という奏法で、曲の最後を締めくくったときは、胸が一杯になりました。

 このサークルには、息子が通う幼稚園の園児のママたちが参加しています。私は息子の入園と同時に入会しました。中1の娘がこの幼稚園に通っていたころから、「弾いてみたい」と願っていたからです。

 当時の私は病気続きで、さらに治療による外見の変化で心が塞いでおり、普段の生活にも支障をきたしていました。ハンドベルには憧れていましたが、週に1回の練習に出られる自信も、人前に外見をさらして演奏する勇気もなく、子供たちの前でハンドベルを振るお母さんたちを、いつも羨ましく見ていたのです。

 憧れていたサークルに参加し、ハンドベルを初めて振ったときは心が躍りました。息子が年少組のときの年末に、園庭でクリスマスソングを子供たちの前で演奏したときは、感動のあまり涙がこぼれました。毎週の練習後、お茶を飲みながら、メンバーとおしゃべりすつのも楽しみの一つでした。

 このサークルでは、園児の卒園とともにメンバーも卒業します。が、二十数年前に当時の卒園児のママたちが結成したハンドベルサークルが活動を続けており、卒園後の参加も歓迎されています。年に数回の交流会では、互いの演奏を披露し合い、そのサークルの和気あいあいとした雰囲気も知っています。が、私は参加を考えませんでした。ハンドベルへの様々な思いは、この3年間の活動で完結すべきだと考えたからです。

 幼稚園生活に思いを残すことなく、前へ進めるー。53歳にして、息子が幼稚園を卒園した”超高齢ママ”は、そんな気持ちでサークルを卒業しました。でも、最近、気持ちが揺れています。体調が悪化していく中、切羽詰まった思いで書いた「人生でやり残したリスト」を一つ一つ実現させていくことに、もうこだわる必要はないのではないかーと思い始めたからです。

 人生をより豊かにする趣味の一つとして、ハンドベルを演奏しても良いかもしれないー。携帯電話に保存した、最後の演奏の動画を時折見ながら、そんなことを考えています。


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