2018年2月18日日曜日

親の心得

  「ママ、ちょっと相談したいことがあるんだけど」
 娘がお風呂のドアを開け、湯船につかっている私に話しかけてきました。

 「うん、いいよ。何?」
 娘はドアを少し開けて、息子が洗面台で使う踏み台をドアの側に起き、そこに座って話し始めました。こんなことをするのは初めてでしたので、よほどの悩み事でしょう。
 
 「Sちゃんのことなんだけど。Sちゃんはその日にあったこと全部ママに報告するみたいなの。で、Sちゃんのママがそれを悲しんで、Yちゃんのママに電話して1時間以上も泣いて訴えるんだって」
 「へぇ、すごいママだね」
 「で、Yちゃんのママが、胃が痛くなるぐらいストレスを感じていて、Yちゃんが心配しているの」

 娘はインターナショナルスクールに通っています。学年は日本の中学1年生に当たる7年生です。Sちゃんは昨年転入してきた韓国人。Yちゃんは母親が韓国人で父親が日本人、うちの娘は日本人とアメリカ人のハーフです。仲良し3人組はなかなか難しく、2人がより親密になり、もう1人が寂しく感じるーを繰り返しているらしいのです。

 友人関係に悩むことは、女子なら誰もが通る道。多くの母親は、気にはなっても、干渉しないように努めて静観し、時が解決するのを待つのではないでしょうか? ましてや、娘は7年生。よほどのことがない限り、親は口を出すべきではないでしょう。

 私はまずはシンプルな助言をします。
「Sちゃんに、お母さんを心配させるような報告をしないようアドバイスしたら?」
「うん、それは言ったんだけど。『お母さんに話をするのは悪いことじゃない。それを、ママが他のママに電話をして泣いて話したって、私のせいじゃないもん』って言うんだよね」

「確かに、それはSちゃんのせいではないよね。子供の言うことに一喜一憂して、それを他のママに感情的になって話すそのママが分別がないということかも。Sちゃんやママの行動を変えられないのだったら、あなたが自分の行動を変えてみたら? たとえば、お友達とはなるべく当たり障りのない話をするとか」

 私は、ママ友達の間でする、盛り上がるけど、当たり障りのない話の例を言います。
「誰も傷つけないから、いいもんだよ」

「でもさ、そういう話って面白くないじゃん。それに、思い付かないし」
確かに、当たり障りのない話でしのぐのは大人の知恵であり、それは、本音で付き合い真の友達を作るべき年頃の娘には、適切なアドバイスではなかったのでしょう。深く考えずについ口に出してしまったことを私は反省しました。

 長々と話をした後、「お友達のお母さんたちのことは、子供が心配しても仕方がない。子供が出来ることは自らの言動に気を付け、友達の気持ちに寄り添い、そして皆と仲良くすること」という当たり前の話に落ち着きました。娘は話をしてすっきりしたのか、「ママ、ありがとう」と言ってお風呂のドアを閉めました。

 実は私は、Yちゃんのママから、以前電話をもらっていました。Yちゃんのママは控えめに、「子供の友人関係に口は出したくないのですが・・・Sちゃんのママから電話があり、泣かれてしまい、対応に困っているんです」と話し始めました。「私が娘から聞いた話は本当だろうかと確かめたいと思い、お電話しました。娘の話は、半分は疑っているんです」と話します。真っ当なお母さんだなという印象を持ちました。

 私は娘からいろいろ聞いていましたが、「うちの娘は学校であったことはあまり話さないんです。でも、SちゃんとYちゃんとは仲良くしてもらっているとは聞いています。いつも仲良くしていただいてありがとうございます」とだけ答えました。Yちゃんのママは、「うちの娘は、日本で生きていかなければならない。だから、日本のお友達と仲良くしてほしいんです」と言いました。その思いの切実さに、胸を打たれました。国は違えども、ハーフの子供を育てるときの心の葛藤は、私には十分理解出来たからです。

 Yちゃんのママは「韓国人は感情的なんです。Sちゃんのママは日本に来て間もないし、日本語も英語も話せない。不安も大きいんだと思います。だから、娘の言うことをそのまま受け止めて感情的になってしまうのかもしれません」と語り、話を終えました。私とYちゃんのママはお互い「これからも、うちの娘をよろしくお願いします」と言い合い、電話を切りました。

 もちろん、私はこの電話のことは、娘には言っていません。電話があったのは数カ月前ですので、SちゃんのママからYちゃんのママへの電話はずっと続いていたのですね。Yちゃんのママに同情しました。 

 さて先日、息子が今春入学する地元の小学校の説明会に出席しました。そこで保護者に手渡された「保護者の皆様へ」というお便りの中に、次のようなお願いが書かれていました。

「子供の前では、お互いに親、担任を立てる」
「子供の話を鵜呑みにしない」
「子供の喧嘩に親が出過ぎない」
公立小学校の、親への対応の苦労が偲ばれました。

 これは、お国柄や子供の年齢に関係なく、親がわきまえるべきことではないでしょうか? インターナショナルスクールでも、「万国共通の親の心得」として新入学児や転校生の親に配布、いや、インターでは紙のお便りがないので、メール配信してもらえないだろうかと思いました。

 あれから時折、娘に「Sちゃんのママから、Yちゃんのママへの電話攻撃止んだのかな?」と聞いています。娘は毎回「うーん、どうかな? 分かんない」と答えます。Yちゃんのママが穏やかな日々を送れていること、そして、うちの娘が友達と仲良くしてくれることを願う日々です。

0 件のコメント: