2017年11月15日水曜日

ヴァイオリンは嫌!

 「公文に行きたい!」。息子が先日、そう私に言いました。同じ幼稚園に通うママ友達に「うちの息子が・・・」と言うと、そのママも「本当? うちもこの前急に言い出したの」と言います。どうやら、幼稚園のお友達が園の帰りに行っているところに出くわし、「自分も」と興味を抱いたらしいのです。

 そのママ友達とはいつも、「公文にするか、そろばんにするか?」と”お勉強系”の習い事をどうするか話し合っていたところ。子供たちが自主的に行きたいというのですから、渡りに船です。さっそく7日の火曜日、一緒に体験会に連れていきました。ひらがなや数字を練習するのが楽しかったらしく、息子は「また行きたい」と入会を希望しました。

 さて、火曜日はヴァイオリンレッスンの日です。公文の体験学習を30分ほどで終わらせた後、連れて行きました。いつものように、車で先生のお宅へ。息子がヴァイオリンと楽譜の入ったバッグを持って先にお宅に入りました。車を駐車した後にレッスン室に入ったところ、先生が「お母さま、楽譜がありません」と言います。

 「あっ、すみません」。楽譜をバッグの中に入れた記憶がありますが、記憶違いでしょう。「今朝、練習しましたのでそのまま譜面台に忘れたかもしれません。今、取りに行きます」とレッスン室を出ようとしました。すると、息子が「ママはちゃんとバッグの中に入れたよ」と言います。が、楽譜はありませんので、その言葉を気に留めもせず、自宅に戻りました。

 ところが、楽譜があるはずの譜面台には何もありません。そこで、私は直前の息子の言葉を思い出しました。そして、はたと気付きました。楽譜がなくなったのはこれが2冊目。1冊目がなくなり不思議に思っていたところ、2冊目がなくなったのです。私は車を運転し、先生のお宅に戻りました。そして、息子に聞きました。

「楽譜をどこかに隠したでしょう? 楽譜がなくなったのは2冊目よ」

 すると、息子は「あっ、さっき、ソファの下に落ちたかもしれない」と言います。ソファの下を二人で探すと、ありました、楽譜が。私は息子を問い詰めました。「どうして、隠すの?」。そうすると息子がいきなり泣き出し、絨毯の上に突っ伏しました。

 「ヴァイオリンが嫌なの! ママ、僕が4歳ぐらいのときにすれば良かったんだ。僕がやりたいって言わないのに始めたのが嫌だったんだ」

 そう言って、泣きじゃくりました。息子の小さな背中を見ていると、じわじわと反省の気持ちが湧いてきました。親の希望で子どもに習い事をさせては良くなかったのだ、と。でも、言い訳をすれば、世の中のスポーツ選手や音楽家は物心がつく前から親がさせていることも少なくありません。息子の場合、運動が大好きで、音楽はあまり好きではないため、このようなことになったかもしれません。

 息子がヴァイオリンを始めたのは2歳半です。私の希望でした。6歳で娘がヴァイオリンを習い始めてから、世界的ヴァイオリニストの五嶋みどりさん・龍君きょうだいの母親である五嶋節さんの本や節さんに関する本、またヴァイオリニストの千住真理子さんの本、盲目の天才ピアニストの辻井伸行さんに関する本などを読んで、子供の早期音楽教育に興味を抱いていました。また、ノンフィクション作家の最相葉月さんの「絶対音感」を読み、ある音の高さを他の音と比較せずに知覚・想起して判別できる聴音能力についても興味を抱いていました。で、息子に早くからヴァイオリンを習わせてみようと考えたのです。

 娘がヴァイオリンを始めたのは小学校入学の2カ月前でした。始めた理由は単純です。サンタさんに「ヴァイオリンがほしい」と手紙を書き、願いが叶ってヴァイオリンをサンタさんからもらったからです。

 前年のクリスマスに「フルートがほしい」と手紙を書いたところ、12月25日の朝枕元にあったのは銀色に光るフルートではなく、木製のリコーダーでした。サンタさんにも”予算”があったのでしょう。翌年ヴァイオリンを頼んだところ、枕元にあったのはカラフルなおもちゃのハンドベル。「みんなが欲しいものもらえるはずないよね」と悲しそうにつぶやきながら、おもちゃのハンドベルを振って鳴らしていたところ、25日の午後部屋のカーテンの影に本物のヴァイオリンを見つけたのです。娘の健気な姿をいじらしく思ったサンタさんが、25日の午前中に調達してくれたのだと思います。

 そのときもらったのは大きめの「2分の1」というサイズ。サンタさんはヴァイオリンには適正サイズというものがあり、子供の体に合ったサイズを弾く必要があるーと知らなかったらしく、長く使えるよう「大きめのサイズ」をプレゼントしてくれたのです。

 娘は翌年の2月からレッスンを受け、小学校に入ってしばらくしてから「4分の3」サイズに進み、小学校5年生のときに「フルサイズ」のヴァイオリンになりました。今は勉強が忙しくなり練習時間は少ないですが、週1のレッスンのほか学校のオーケストラに入って演奏しています。生涯にわたる趣味となるでしょう。

 さて、息子です。サッカーや水泳は本人の希望で習い始め、毎回嬉々として行きます。が、ヴァイオリンはさっぱり。でも、「そんなに嫌なら辞める?」と何度聞いても「辞める」とは言わない。練習も、私に言われれば文句を言いながらもやります。「あと3回」「あと2回」とつぶやきながら、体育系の「根性」で弾くという感じです。

 娘に言わせると「ギーギーと音が汚い」そうですが(息子が練習するときには娘は耳栓をします)、曲らしいものも弾けるようになった息子。親としてこの段階で辞めさせるのは大きな決断です。

 楽譜が見つかった後、紛失したままのもう1冊の楽譜のありかを問い詰めたところ、息子は白状しました。娘の部屋の本棚の下でした。息子は1冊目を隠した理由を「楽譜が2冊あるのが嫌だった」と説明。でも、2冊目も隠したのですから、ヴァイオリンそのものが好きではないのでしょう。

 楽譜紛失事件の顛末を先生に報告した昨日のレッスン。先生は息子と向かい合い、しっかり指導してくれました。「ヴァイオリンを弾きたくなかったら、先生に言って。ソルフェージュ(楽譜を読む基礎訓練)や音取りなど出来ることはたくさんある。どうしても嫌いだったら、辞めても良いと思う。でも、嘘は絶対にいけません」と。3人の子を育て上げた先生ですので、叱りどころを知っていらっしゃる。私はうなずきながら、息子と一緒に先生の話を聞きました。

 先生の話を聞き納得したのか、息子はまたヴァイオリンを持って、譜面台の前に立ちました。そして、いつものように宿題の曲を弾き始めました。その姿を見ながら、「嫌がる習い事をさせるのは親のエゴだろうか?」「いや、いつかヴァイオリンを弾くことが楽しくなる日が来る」と、気持ちが揺れました。

 ここは覚悟を決めて、”辞めどき”を考えるときなのかもしれません。
右から息子が最初に弾いた「16分の1」、幼稚園年中で弾いた「8分の1」、現在の「4分の1」。右4番目から娘の最初の「2分の1」、「4分の3」、現在の「フルサイズ」




 

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