2016年10月19日水曜日

中村芝翫襲名披露公演へ

  私の秘かな趣味は、歌舞伎観劇です。今月は中村橋之助の八代目中村芝翫襲名披露公演に行きました。同じく歌舞伎好きな札幌の母も連れていきました。今回は橋之助が亡父の名跡を継いだだけでなく、息子三人もそれぞれ、四代目中村橋之助、三代目中村福之助、四代目歌之助を襲名するおめでたい公演。私と母は、豪華な役者たちの至芸を堪能しました。

 今回は初日にチケットを取りました。襲名をする役者が観客に挨拶をする「口上」がある、夜の部にしました。親子4人の襲名披露公演なのでチケットはすぐ売れてしまうだろうと予想し、発売日の発売開始時間・午前10時には、パソコンを立ち上げ、電話も用意し、両方でアクセス。しかし、1階の1等席はすべて売り切れ。2階の1等席もほとんど売れています。「たぶん、ご贔屓の方々にチケットがまわるのだな」と思いつつ、気を取り直して注文し、2階席ではありますが、良い席を取ることが出来ました。

 さて、当日。母とおしゃれをして日比谷線に乗り、歌舞伎座のある東銀座駅へ。改札口を出て上りエスカレーターに乗り地上へ。入り口前にはすでにたくさんの人がいました。昼の部の観客がまだ出てきていないので、夜の部の観客が入り口前で待っているのです。髪を結い上げ、着物を着た美しい芸妓さんも入場を待っていました。
夜の部はまず、尾上松緑が主役を演じる「外郎売」で幕開け。松緑が早口言葉で台詞を言い立てるのを感心しながら聞き入り、中村七之助の美しさに見とれます。「最近、七之助が艶やかになってきたよね」と隣の席の母とする”役者談義”も楽しみの一つ。
 
                

 そして、見どころの襲名披露「口上」。袴姿の19人の役者がずらりと舞台に並びます。真ん中が新芝翫で、観客席から見て左側に息子3人が並んでいます。まずは、新芝翫の右横の坂田藤十郎が挨拶。やはり、この人がいると舞台が締まります。母とも開幕前に藤十郎の魅力について語り合ったばかり。結構なお年なのに、妖艶で、色気たっぷりなのです。
 藤十郎の後は玉三郎・・・と右側の役者らが次々と述べます。そして、右端の尾上菊五郎。「ちょろちょろせずに・・・」と、新芝翫に釘を刺します。観客席からは笑いが漏れます。公演直前、タイミングを見計らったように、京都の芸妓さんと熱い関係にあると週刊誌に書かれてしまったことを言っているのです。私と母も「口上で触れないわけにはいかないよね」と予想していました。観客を笑わせて、深刻さを打ち消してしまう菊五郎はさすが、と妙に感心しました。 
 そして、最後に新芝翫。「先祖の名を汚さぬよう、なお一層芸道に精進する心得でございます」と述べ、息子3人も「三人兄弟力を合わせてなお一層芸道に精進いたします」(新橋之助)などと立派に挨拶。観客たちは大きな拍手で4人の襲名を祝ったのでした。私と母も、2階席から大きな拍手を贈りました。

 三幕目は、「熊谷陣屋」。源平合戦での物語です。新芝翫が源氏の武将・熊谷直実を演じます。敵の若武者・平敦盛の首を討ち取ったとするが、実は、敦盛の身代わりとして我が子の首を討った直実。我が子の首を妻と一緒に抱く場面は、涙を誘いました。

 最後は玉三郎の「藤娘」です。うっとりとするほどかわいらしく、初々しい玉三郎。1階の両側の桟敷席に並んだ芸妓さんたちを双眼鏡でちらちらと見ながら、「この中に新芝翫のお相手がいるのかしら?」などと興味津々だった私も、玉三郎の舞を見た後は、「きっと、芸妓さんたちは、玉三郎を参考にするために来たんだわ」と思い直しました。女性がお手本にしたいと切望するほど、玉三郎は、美しかった。

 私が歌舞伎役者の中で最も好きなのは、この舞台に出ているはずだった新芝翫の兄、中村福助です。報道によると福助は2013年に脳内出血で入院、その後は公の場に出てきていません。口上では、福助の息子の児太郎が、父親がリハビリに励んでいることを観客に伝えていました。福助はどんなにこの舞台に出て弟の芝翫襲名を祝いたかっただろう、そして、自身の、女形の大名跡・中村歌右衛門の7代目の襲名が発表されて間もなくの発病で、どれだけ悔しかっただろうと思いました。

 「早く福助に舞台に戻ってきてほしいね」
 そう話しながら、私と母は歌舞伎座を出ました。もちろん、ちゃっかりと、出口に立つ着物姿の新芝翫の妻・三田寛子の横を通ってその表情を窺い、帰りの電車での話題にしたことは、言うまでもありません。歌舞伎は舞台も、舞台の外の話題も、ファンにとっては楽しみなのです。

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