2017年8月4日金曜日

さよなら、チャイルドシート

 中1の娘がようやく、幼稚園年少のときから座り続けていた車のチャールドシートを取り外すことに同意してくれました。身長165cmと、私の身長よりも高くなった娘が、絶対に手放したがらなかったこのチャイルドシート。本人曰く、「神様からのお告げがあった」と言うのです。

 ベビー用品のメーカー「combi」のチャイルドシートを手放すよう娘に説得を始めたのは、数年前のことだったと思います。赤ちゃん用のベビーシートが小さくなった息子に、チャイルドシートと交換する必要に迫られたときです。当時、娘も身長は140cmぐらいはあったでしょうか? 当然、娘のお下がりのチャイルドシートを息子に使わせる予定でした。ところが、娘は「このチャイルドシートには私のお尻の形がきちんとついていて、座るとピッタリとはまって心地よいの」と言い、頑として譲りませんでした。

 私と夫で説得を続けましたが、娘の意思は固く、結局、娘とおそろいの「combi」のチャイルドシートを息子に購入することになったのです。親としては娘の体の成長に悪影響があるのでは、と心配でしたが、半ば諦めていました。そして、先月。

 たまたま車で外出した後、後部座席を見ると、娘のチャイルドシートに白いタオルが敷いてありました。不思議に思って車を降り、後部座席のドアを開けてその白いタオルをはがしてみると、何とガムが付着していたのです。そのガムは約5cm四方に伸びて、爪で引っ搔いても取れません。

「このガム何?」
娘に聞いてみました。
娘は残念そうな顔で答えました。
「それは、神様からの私の質問に対する答えだったの」
「どういうこと?」
「この前ね、『このチャイルドシートにずっと座っていられますように』って神様に真剣にお願いしたら、その次の日、ガムが椅子にべったりとついちゃったの。寝る前に口から取り出して、ティッシュがなかったから、シートの横にちょっと置いたガムが、寝ている間に落ちてしまったんだと思う」
「それが、神様の答え?」
「そう。神様からの、もうこのチャイルドシートは手放しなさいという答え。だけど、まだ、心の準備が出来ていないから、タオルを敷いて座っていたの」

 クリスチャンの娘は、親の言うことは聞かずとも、神様の”言うこと”は聞くのです。こういうとき、宗教が人の心に与える影響の大きさと深さに、ただただ驚きます。私は、心の中で素直に、娘の神様に「ありがとうございます。親が出来なかったことを解決してくださって」と礼を言いました。

 「自分のお尻の形にピッタリと合っている」などと娘は言っていましたが、娘はチャイルドシートを手放すことは子供でいることを手放すことなのだと、思っていたのだと思います。小さいころから背が高く、年齢よりずっと年上に見えてしまい、世間からなかなか子供扱いをしてもらえなかった娘。7歳のときに弟が出来、「早くお姉ちゃんになりなさい」と親に期待され、子供でいる時間を突如奪われてしまった娘。だから、子供でいることのこだわりが誰よりも大きかったのです。私たちもそれを知っていましたので、娘が子供でいられる”物”や”環境”を取り上げることは控えていました。

 娘がほぼ10年間座り続け、ガムが付着したこのチャイルドシートは取りあえず、屋根裏部屋に仕舞いました。
 「これは捨てないよ。しばらく取っておいて、納得したら処分しようね」
娘にそう伝えました。

 さて、チャイルドシートをはずした後に車の座席に座った感想を、娘に聞いてみました。
「なんか、楽になった。足も伸ばせるし。でも、眠るときは、前の椅子は頭を押さえてくれたけど、今は頭のやり場がない」と娘は答えました。
「そうだね、チャイルドシートは頭をしっかり支える作りになっていたよね」と私。

 子供はこうした小さな出来事を積み重ねながら、少しずつ大人に近付いていくものかもしれません。

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