2017年7月10日月曜日

先輩を送る

 先輩のお葬式に参列してきました。先輩は55歳。私より3つ上です。2年間、子宮がんと闘ってきましたが力尽き、家族や友人らたくさんの人に惜しまれながら、あの世に旅立ちました。

 自宅から斎場までは、電車を乗り継いで1時間。道すがら、先輩のことを思い出しました。くりくりとした目で、「むつみちゃん」と声をかけてくれた先輩。美しく、優しかった先輩。若いころの記憶はどうして、あれほど鮮明なのでしょうか? 先輩の声や表情が鮮やかに蘇りました。

 斎場に着くと、昔一緒に働いた仲間が幾人も来ていました。女性はあまり変わっていませんでしたが、男性は髪に白髪が目立ち、経った年月の長さを感じました。当時は皆20代。あれから30年近く経ったのです。

 斎場の入り口には、22歳と26歳の娘さんが準備をしたという在りし日の先輩の映像が流れていました。映像の中の先輩は昔と全く変わらず、そして幸せそうでした。きちんと整理されたアルバムが何冊もテーブルに並べられていました。先輩が一冊一冊心を込めて整理したであろうアルバムのページをめくると、先輩の笑顔がたくさんありました。涙をこらえながら、母親の最期について語る素直そうな2人の娘さんを見ていると、「先輩は良い子育てをしたんだな」と思うとともに、「先輩は幸せだったんだな」と嬉しく思いました。

 お通夜が終わった後、参列者のために夕食と飲み物が用意されていました。

「妻は生前、自分がしてほしいことについて口にすることはありませんでしたが、唯一『私が死んだら、たくさんのお花に囲まれて家族や友人たちとにぎやかにお話をしたい』とだけ、言っていました。妻の願いを叶えたいと思います」

 喪主である先輩の夫がそう挨拶をした後、皆でお酒を飲みながら、話に花を咲かせました。「亡くなった人が日ごろ会えない人を引き合わせてくれる」とよく言いますが、本当にそうでした。昔話は尽きませんでした。テーブルの横に飾られた先輩の遺影も、まるで会話に参加しているように、楽しそうに嬉しそうに笑っていました。

 アルバムを眺めながら、在りし日の先輩を思い出していると、先輩の夫が礼服のポケットから色あせた白い封筒を取り出しました。

 「秘蔵の写真なんだ」

 にこにこと嬉しそうに、結婚前交際していたころの2人の写真を見せてくれました。写真は美しい景色で有名な、北海道富良野市で撮影した写真でした。どこまでも続くラベンダー畑の真ん中で、先輩がこちらを見て微笑んでいました。先輩の将来の夫への真っ直ぐな愛と信頼、先輩をファインダーを通して見つめる夫の愛情が、浮かび上がるような素敵な写真でした。

「これ、いい写真ですね。額に入れて飾ってください」

皆が口々に言い、紫色の畑にたたずむ、美しい先輩に見入りました。

 食事が終わり、もう一度、お線香を上げに祭壇に行きました。祭壇には紫色のラベンダーがたくさん飾られていました。側を通ると、懐かしい北海道の香りがしました。

「葬儀屋さんにね、頼んだんだ」

 先輩の夫が、そう言いました。ああ、先輩は愛されていたんだ、ととても嬉しく思いました。私たちはそれぞれラベンダーの香りを胸一杯にかぎながら、先輩にさよならをしたのでした。







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